2008年10月28日(火) 23:48
オータムセールが終了した翌週22日(水)、同じく北海道市場を会場に「ジェイエス繁殖馬セール」が開催された。
北海道はこの時期になると「晩秋」のたたずまいだが、この日は幸い天候に恵まれ、会場には日高の生産者を中心に多くの人々が集まった。
市場開場は午前8時。購買希望者は、それぞれ名簿を見ながら目当ての馬の待機馬房に赴き、そこで下見をするシステムである。セリ開始も午前9時半と早い。日照時間の短い時期になっているため、なるべく明るいうちに市場を終わらせたいという主催者側の意向なのだろうか。
ともかく、かなり厳しい結果に終わったオータムセールの翌週ということで、来年以降の生産地動向を憂慮する声が多い中、この市場もそうしたムードの影響を受けざるを得ない。繁殖牝馬の場合、受胎馬であっても、それらの出産した産駒が販売に供されるのは一部を除いて再来年の1歳時。不受胎馬もしくは未供用の繁殖牝馬ならば、さらにもう1年先のこととなる。
2010年、2011年に果たしてどんな生産状況になっているものかまったく予測できない、というのが正直なところだろう。ここで投資すべきかどうかを判断するのは相当な難事である。そうした生産地を取り巻くやや暗いムードが今回の繁殖馬セールにも影を落とした。
この日上場された繁殖牝馬は全部で186頭。うち91頭が落札され、売却率は48.92%。売り上げ総額は2億9083万5000円(税込み)。1頭平均価格は319万6038円。
昨年秋に開催された同市場と比較すると、上場頭数で6頭増、落札頭数でも5頭増。したがって売却率ではわずかだが前年実績を上回った。
しかし、売り上げ総額は、昨年の4億9324万8000円と比較すると一気にマイナス2億円強の4割減となり、生産を取り巻く環境が厳しくなっていることが如実に出た感じである。
最高価格馬は60番「チアズヒカリ」の2940万円(税抜き)。父マヤノトップガン、母サラトガシャドーズ(その父Saratoga Six)という血統の8歳鹿毛。中央4勝、兵庫公営1勝の競走成績があり、今年度より供用開始という繁殖牝馬である。ディープインパクトを受胎しており、最終種付け日は3月22日となっている。
写真提供・齋藤宗信氏
次いで59番「チアズフィアレス」の2835万円。こちらは父フォーティナイナー、母チアズフラワー(その父Al Nasr)の6歳鹿毛。兄姉にチアズグレイス、チアズシュタルクのいる名血で、この馬もディープインパクトを受胎している(最終種付け日2月6日)。
結局、186頭の上場馬のうち、ディープインパクトを受胎している2頭が高額取引馬の“ワンツー”を占めた。3番目は68番「ムーンダンサー」の2436万円。父サンデーサイレンス、母シュームーズ(その父Habitat)。7歳鹿毛。兄にシャーミット(1996年英ダービー馬・種牡馬)のいる血統で、フレンチデピュティを受胎。最終種付けは6月14日。
1歳市場と比較すると、ことのほか価格差の大きいのが繁殖馬セールの特長で、まさしく「玉石混交」の感がある。受胎種牡馬、本馬の血統と競走成績、繁殖成績、年齢、馬体などが繁殖牝馬の主たる構成要素だが、これらがすべて完璧に揃っているような素材は最初から売りに出されるはずはなく、出てくるのはやはり何らかの事情(理由)により手離されることになった繁殖牝馬たちなのである。
最低価格は11万5500円。この価格帯(10万円台)の取引馬もかなり多く、数えてみると20頭を超えていた。受胎種牡馬では、シニスターミニスター、タップダンスシチー、ワイルドラッシュ、スキャン、ルールオブロー、ノボジャック、スパイキュール、エアジハード、アグネスワールド、ウインクリューガー、ムーンバラッド、グランデラ、スズカマンボ、アサクサデンエンなどといった名前が並ぶ。この中には今年度より供用開始の新種牡馬もいて、やや複雑な心境にもなってくる。
もっとも、1歳市場においては種付け料未満で取引される馬が続出しており、これもまた「生産地の今」を語る断面なのかも知れない。馬を「売る側」の生産者が、ここでは一転して「買う側」に回ることになる。
「生産馬が高く売れない今年は、繁殖牝馬も高くは買えない」ということか。
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田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。