騎乗や厩舎作業に朗報〜スマートスーツ

2008年11月18日(火) 19:36

 競走馬を扱う現場で働く人々にとって「腰痛」は一種「職業病」とも言える。中腰になって行なう作業は多く、しかも重いものを持ち上げたり、運んだりする機会が多い。また騎乗する際にも膝や腰などに負担がかかり、中年になってくると馬に乗るのが辛くなる。そのために、技術を持っているにも拘わらず、騎乗できなくなってしまった人が過去にはかなり多かったに違いない。

 そんな人体への負担を大幅に軽減できそうなスグレモノが来春を目処に発売されようとしている。「スマートスーツ」と名前をつけられたこの製品は、上下一体型になったウェットスーツ様の形のものに伸縮性の素材でできたバンドがついており、そのバンドが膝から腰、そして肩まで繋がっている。腰を屈めた時に、バンドがその動きを元に戻そうとすることで、体への負担を和らげる仕組になっている。

スマートスーツ着用時

 聞くところによると、このスーツは「スマートスーツ」と「スマートスーツ・ライト」の2種類あり、スマートスーツの方は、小型のモーターの力によりワイヤーを伸縮させて運動を補助するタイプ。ライトはモーターなしで伸縮バンドのみのタイプという。

 先月31日に、このスーツを実際に騎乗者が着用して実験を行なうという情報が寄せられたので見学してきた。浦河にあるチェスナットファームから騎乗者を2人借用し、BTC北にある一周800mのダートコースでスマートスーツ(ライトを使用)に身を包んだ騎乗者が育成馬に跨った。各種のデータを取りながらの実験のため、騎乗者の体には検査機器が装着されており、思った以上に大掛かりである。

スマートスーツで騎乗

 このスマートスーツの開発に携わっているのは、北海道大学大学院の田中隆之准教授。工学博士でもあるこの田中先生は専門がロボット工学だそうで、このスーツには、そうした専門知識がフルに生かされている。小型モーターを使用し人体の運動を補助するのは、まさしくロボット工学そのものだ。

田中隆之准教授

 そして、この田中准教授と民間のいくつかの会社が集まって「産学協同開発」で完成したのがこのスーツなのである。今回の騎乗実験で得られたデータによれば、腰や大腿四頭筋などへの負担が、このスーツ着用によって著しく軽減されたという。詳細な研究結果は、12月1日〜3日の日程で開催される「日本ウマ科学会」(会場・品川きゅりあん)にて発表される予定である。

取材風景

 北海道では、11月13日と14日の両日、アクセスサッポロにて開催された「ビジネスEXPO」に出品され、多くの人々の注目を集めたという。足腰の負担を軽減できることから、応用範囲はかなり広く、土木建設や医療福祉、農林水産業などの労働現場ですでに問い合わせがかなり来ているそうだ。そのために、現在は生産ラインを確立することと販売体制を整えるべく準備が進められており、本格的な発売は来春になるらしい。価格は「ライト」で2〜3万円前後の予定とか。

 騎乗者用の需要などは全体から見るとごくわずかなものだろう。今のところ、むしろ他業種の方が、このスーツにより熱い期待を寄せていることは間違いなく、すでにかなり多くの企業がこのプロジェクトに参画しようとしているらしい。どこまで大化けするか、見ものである。

スマートスーツ

 このスーツに興味のある方は、ぜひ12月2日、品川きゅりあん(品川区東大井)に足を運んで、田中准教授の研究発表をお聞きいただきたいと思う。

毎週、2歳馬を格付け!丹下日出夫の「番付」がnetkeibaで復活! 参加無料!商品総額50万円!netkeibaPOG大会「POGダービー」が開幕!

バックナンバーを見る

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

新着コラム

コラムを探す