開幕目指し準備進む〜門別競馬場

2009年03月10日(火) 23:00

門別競馬場風景

 道営ホッカイドウ競馬の新年度は、4月29日札幌開催よりスタートする。そして、1月28日掲載の当コラムにてお伝えしたように、門別競馬場では、5月20日のリニューアルオープンに向け、現在急ピッチで工事が進行中である。

ホッカイドウ軽種馬振興公社専務理事・井村勝昭氏

 今春より新たにホッカイドウ競馬の運営母体となる(社)ホッカイドウ軽種馬振興公社の専務理事・井村勝昭氏(66歳)にお目にかかり、直接お話を伺う機会に恵まれた。

 井村氏の前職は(財)軽種馬育成調教センター(BTC)日高事業所所長。本来ならば昨年3月に退職し悠々自適の日々を送る予定になっていたとのことだが、日高の軽種馬関係者からのラブコールにより、道営ホッカイドウ競馬の再建に取り組む大役が回ってきたのである。

 「私はJRA職員でしたから、競馬開催のために土日はほとんど休めず、家族にはずいぶん苦労をかけたと思います」と往時を振り返る。「それで、今度は少しゆっくりと旅行でもしたいと思っていた矢先にこの仕事のお話を頂いて、隠居するのが何年か先送りになってしまいました」と苦笑いする。

門別競馬場風景

 井村氏の目に、ホッカイドウ競馬の現状はどのように映っているものか。

 「とにかく、今回の不況は完全に想定外です。最悪の環境下でのスタートと言っても差し支えありません。とはいえ、12億3900万円の資金を投じて新たに設備投資をし、この門別で大半の開催をこなす方針がすでに決定しておりますから、何としてもここで競馬を成功させなければなりません」(井村氏)。逆風と表現する以外にないほどの経済状態だが、生産地主導型の新生ホッカイドウ競馬がスタートするわけで、その中心に座る井村氏の重圧は相当なものだろう。

 「私は、決してスーパーマンでも救世主でもありません。はっきり言って、地方競馬の業績を劇的に回復させられるような奇策はないと断言しておきます。ただ、例えばホッカイドウ競馬の場合には、生産地に近く2歳馬の入厩が多いという他場にはない特長を持っていますから、その魅力をいかに売り出すかということだけです」

門別競馬場風景

 南関東始め、各地の地方競馬に限らず、中央競馬にもホッカイドウ競馬出身のサラブレッドたちが移籍もしくは遠征して活躍しているのは周知の通りである。ほぼ雪が融けた今の時期は、もう外周の本場場も開放されて、目下多くの2歳馬たちが精力的に調教を積まれている。3月9日現在、2歳馬だけで606頭が入厩しているという。昨年同期と比較しても30頭ほど多いらしい。因みに古馬は3歳が97、4歳以上が177、計880頭が在厩しているそうである。総数は昨年とほぽ同じだ。

 「まあこれは善意に解釈すれば、ここで新体制によるスタートを切るわけですから、生産者馬主の方々(ホッカイドウ競馬は半分が生産者馬主である)の期待の表れということになりますか。各地への2歳馬供給基地としての役割を果たしてきたのがホッカイドウ競馬ですし、これからも基本は変わらないものと思われます。ここが仮になくなるようなことがあれば影響はかなり大きなものになりますから、何とかせめて現状の賞金水準を下げないままやって行きたいとは考えています」

 もちろん前述したように井村氏にとっても起死回生の秘策などないという。だが、競馬が他の公営競技と決定的に異なるのが「物語が成立する余地があるか否か」という点にある、と井村氏は語る。「もし、日高が壊滅してほとんど大手の牧場の生産馬ばかりになってしまったら、競馬の魅力がずいぶん小さくなってしまうだろう」と憂慮する。

 問題は山積しているのだが、さしあたり今年はなるべく足繁く門別に通い、新生ホッカイドウ競馬の姿を折々に伝えたいと考えている。いずれにせよ、馬産地は門別競馬場と一体のものになっており、生きるも死ぬも一蓮托生の運命共同体である。1つだけはっきりしているのは、ホッカイドウ競馬が立ち行かなくなった時、日高を中心とした馬産地もほぼ壊滅的な打撃を受けるであろうということ。いかにここを守り残して行くか。新しいスタンドとナイター用照明設備、スタンド裏へ移動したパドック、その西側には新たに既存の厩舎を一棟撤去し、物販やイベントのためのオープンスペースも作られる。それらの諸施設は来る4月27日にお披露目されることになっており、当日は照明塔を点火しての模擬レースも予定されているという。

門別競馬場風景

 ともあれ、仏は作った。後はどんな“魂”を入れられるか。まさしく「試される大地・北海道」ならぬ「試される地方競馬・道営」といったところであろう。何を措いても、4月27日には門別競馬場へ行ってみようと思っている。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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