日高軽種馬農協総代会

2009年03月25日(水) 11:50

 去る3月19日(木)、新ひだか町静内にて日高軽種馬農協総代会が開催された。3月4日付けの当コラムで触れたように、年明け早々より日高では組合が「市場主取り馬から1%の手数料徴収案を導入しようとしている」問題を巡って議論が沸騰し、2月に各町の軽種馬生産振興会単位で行なわれた組合側との懇親会では反対意見が続出した。

 この計画の基本にあるのは、市場振興策を進めて行くための財源に充当させたいとする組合側の台所事情である。59億円から一気に昨年は49億円まで市場売り上げが減少し、今年はこのままではさらに厳しい市場運営が予想されるために、従来JRAより交付されていた市場取引馬奨励賞に代わるボーナス制度を創設して、市場取引の活発化を図りたいとするものだ。

 具体的には、2歳戦において市場取引馬が優勝した場合、中央40万円、地方20万円(ただし1着賞金が20万円に満たない場合にはその賞金額を上限とする)を1度に限り交付する、という計画である。

 いや正確に言うと「計画であった」と表現すべきか。その後、この40万円&20万円の奨励金交付案は、その財源が主取り手数料徴収によって確保されようとしていることから組合員の猛反発を招き、総代会開催を前に組合側がついに今年度の上程を見送るに至った。それに伴い、奨励金交付案も「2歳トレーニングセール取引馬のみ」に大きく後退し、1歳及び当歳市場に関してはこれといった市場振興策を打ち出せずに総代会当日を迎えた。

総代会全景

 さて、その総代会では、議案審議が始まると同時に、組合に対する質問や意見、要望などが相次ぎ、近年稀に見る活発なやりとりとなった。

質問に立つ組合員

 収支決算報告や予算案について、従来は細々とした項目ごとの内容まで踏み込んで質問する組合員はほとんどいなかったが、今年は、組合職員給与や市場開催経費の内訳にまで質問の刃を向けられ、組合側が答弁に窮して審議が中断する場面すら見られた。

答弁する荒木正博組合長

 組合側も、各組合員も、市場振興がそれぞれの経営の根幹となることについては共通した認識だが、如何せん昨今の経済状況の厳しさから、今年はかなりの落ち込みが予想されており、閉塞感が高まるばかり。本来、市場は「上場馬が多くの人々の目に触れ、正当な評価を得て公明正大に取引される場」である。しかし、現実は、多くが生産原価を割り込んだ廉価で落札される例が相次いでおり、平均価格が下落し続けている。

「何とかしなければ」という思いはそれぞれ等しく胸中にあっても、具体案となると、主取り馬手数料1%徴収案のように、組合側と組合員との間にはかなり大きな意識の断裂が見られる。

質問に立つ組合員

 結局、21年度事業計画と予算案は原案通り可決されたが、午前9時半より始まった総代会は正午になってもそのまま続行され、終了したのは午後2時過ぎであった。

 ほぼ主取り手数料1%徴収案の導入問題を巡る攻防に終始した感のある日高だが、この問題ばかりがクローズアップされ過ぎて、市場振興に関するこれといった対策案を打ち出せなかったことが何とも残念である。

 すでに「セレクトセール」を開催する(社)日本競走馬協会では、同セール取引馬の重賞優勝馬に対してGIで1000万円、GIIで300万円、GIIIで100万円(ただしいずれも2歳戦限定)を支給することが決定している(セレクトセール・プレミアムと称する)。

 方や、日高軽種馬農協では、40万円&20万円の交付金(見送られたとはいえ)を広く浅くばら撒く作戦であり、両主催者の考え方の違いがこういう部分にも如実に現れている。実際に何頭の馬がこうした奨励金にありつけるものか判然としないが、見た目に強烈な印象を与えるのは圧倒的に前者の方であろう。

 参考ながら、昨年の場合、日高軽種馬農協主催の「北海道トレーニングセール」において取引された82頭のうち、中央デビューが34頭、地方デビューが39頭。そして勝馬頭数は中央5頭、地方18頭というデータが残っている。前記の奨励金を当てはめると、中央200万円、地方360万円(ただし最大値である)の計560万円となる。果たして、40万円と20万円の奨励金が、それぞれの馬主にとってどの程度の魅力に映るものか。

 いずれにしても、市場振興策に関しては組合内で今後1年間かけてじっくりと練り直されることになっている。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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