2009年03月31日(火) 23:59
ナドアルシバ競馬場を舞台とした最後のドバイワールドCナイトは、行われたサラブレッド6重賞のうち5重賞まで、中東勢の優勝という結果に終わった。このうち2重賞の勝ち馬は、ナドアルシバのオールタイム・リーディングトレーナーとして表彰されたサイード・ビン・スルールの管理馬で、言ってみれば勝って当たり前の陣営が送り出した馬たちだったが、残る3頭を管理する2人の調教師にとっては、生涯忘れえぬ、特別な意味を持つ勝利となった。
レース後、人目を憚らず滂沱の涙にくれたのが、ビッグシティマンでゴールデンシャヒーンを制したジェリー・バートン調教師だ。母が、女性騎手としては当時の全米歴代最多勝となる1131勝をアークしたパティー・バートンで、父もプロのロデオライダーだったという競馬一家に生まれたジェリー・バートン。ウェイン・ルーカスやパトリック・バーンのアシスタントを務めた後、2000年にサウジアラビアにわたり、現在は、王族の一員で彼の地のリーディングオーナーであるプリンス・サルタン・アル・カビーアの主戦厩舎を任されている。
これまでもドバイの開催には何頭も参戦させており、05年にはチキティンでマクトゥームチャレンジ・ラウンド3を制している他、02年のドバイワールドCでは管理馬セイミがストリートクライの2着になるなどの実績を残していたが、ワールドCナイトのレースを制したのはこれが初めてだった。
グラディアトラスでドバイデューティフリーを、イースタンアンセムでドバイシーマクラシックを制し、世界をあっと言わせたムバラク・ビン・シャフヤ調教師は、なんと今季が開業初年度というルーキートレーナーである。それが、今季通算で22勝を挙げて勝ち鞍部門でリーディング第4位。収得賞金部門では、2860万ディルハムを収得して首位に立ったのだから、まさに衝撃のデビューである。エンデュランスの調教師としてはかなりの実績を上げていたようだが、エンデュランスとサラブレッドの競馬では根本からして馬の仕上げ方が違うはずで、いきなりの好成績はシャフヤ師の天賦の才がもたらしたものであろう。
グラディアトラスは前年1シーズン、イースタンアンセムは2歳から前年までの3シーズン、ゴドルフィン所属馬としてサイード・ビン・スルール師の管理下にあり、グラディアトラスはシーズンを通じて未出走。イースタンアンセムはメイドンと一般戦で2勝を挙げたものの、上のクラスでは準重賞ですら勝つことが出来なかった馬であった。それが、ビン・シャフヤ厩舎に移った途端、両馬ともにワールドCデーのビッグレースを含めて3戦3勝の負け知らずなのだ。たまたま馬が良くなる時季に遭遇したという見方も出来るが、1頭ならともかく2頭同時にとなると、シャフヤ師の手腕が馬を変えたと見るのが妥当だろう。
バートン、ビン・シャフヤの両厩舎から、今後どんな馬が育ち、ワールドサーキットに打って出てくるか、おおいに注目されるところである。
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合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。