開講式と終了式

2009年04月21日(火) 23:00

 先週の4月14日(火)と17日(金)、「BTC育成技術者養成研修(課程)」の開講式と終了式がそれぞれ開催された。普通の学校ならば、まず先に終了式、その後に開講式となるのが順序だが、ここでは順序が逆である。先に開講式が行われ、その後に終了式となる。

 おそらく様々な申し送り事項が先輩から後輩に伝達されるためか、それとも訓練用乗用馬の管理上の都合もあるのか。乗用馬は全部で45頭。原則として日々の管理は研修生が行うことになる。

開講式風景

開講式風景

 さて、今年新たにこの研修に入ってきたのは第27期生。上は28歳、下は15歳までの計21名。男性17名、女性4名という内訳だ。出身地も前歴も様々だが、騎乗技術者となるべくこの研修課程に応募し合格した若者たちである。

研修生自己紹介

 14日午前11時半。BTC日高事業所内の診療所2階の一室で、開講式が始まった。研修生が1人ずつ紹介され、来賓が次々に祝辞に立つ。

 牧場勤務の経験者もいれば、まったく馬には触ったことのない未経験者もいる。「最初は戸惑いや混乱の連続だろうが、途中で挫折することなく、一年後には全員が終了式を迎えられるように頑張っていただきたい」と激励の言葉がかけられた。

 12時より昼食会を兼ねた懇親会となり、それぞれ研修生が自己紹介を行った。大学院卒の経歴を持つ24歳の女性もいれば、企業へ就職が内定していたのを蹴ってここに入って来た22歳の男性もいる。中学校を卒業したばかりの15歳男性、高校を出て馬の世界に飛び込むべくやってきた18歳。本州から遠路はるばる入学してきた研修生の方が圧倒的に多く、最も遠い研修生は広島県からである。

 これで晴れて27期生たちは、研修所にて寮生活をしながら、1年間をかけて騎乗技術を中心に競走馬に関する様々なことを学ぶことになる。ともあれ、前途を祝しエールを送りたい。

 その3日後。17日には第26期生17名の終了式が行われた。

終了式記念撮影

 午前10時半。今度はBTC北にある一周800mダートコースで「実技査閲」から始まった。研修生たちが一年間をかけて身につけた騎乗技術を、集まった保護者や関係者などに披露するのが、この実技査閲である。

実技査閲

実技査閲を見守る保護者と関係者

 800m馬場に隣接するグラス馬場の一角で輪乗りをしながら待機していた研修生たちは、3班に分かれて馬場入りし、常歩から速歩、そしてキャンターへと徐々にスピードを上げて行く。見守る保護者たちも、一様にわが子の成長した姿に感慨無量の面持ちであった。

実技査閲

 キャンターから最後はハロン15秒程度にまで速度が上がり、研修生たちは2頭併せで次々に眼前を通過して行く。3日前に開講式を終えたばかりの27期生たちもその先輩の姿に熱い視線を送っていた。「ビフォーアフター」とでも表現すべきだろうか、わずか1年でここまで乗れるようになるものか、と27期生は26期生の騎乗ぶりに驚いたことだろう。

実技査閲

 彼ら26期生は全員が馬業界に就職することになっている。この1年間で彼らは実に465鞍もの騎乗訓練を重ねてきたという。その集大成が先週この欄で紹介したJRA育成馬展示会における騎乗供覧への参加であり、この終了式に行われる実技査閲なのである。

 26期17名の研修生の中には、日本の代表的な生産牧場とも言うべきシンボリ牧場の当主、和田孝弘氏のご子息吉弘君(22歳)や、先頃、管理馬を調教中に不慮の事故で亡くなった蛯名信広調教師のご子息、恵士君(22歳)などもいて実に多彩である。和田君と蛯名君は他の3名とともに成績優秀者に特典として与えられるアイルランド短期留学が決定している。

蛯名恵士君

 「父が急死し、アイルランド行きは断念しようかと思ったんですが、これはせっかくのチャンスですからやはり予定通り行かせていただくことに決めました。それが亡き父も望んでいたことだと思いますし」と蛯名君は語る。帰国後は福島県の天栄ホースパークに就職することになっている。

和田吉弘君

 また和田君はそのまま実家に帰り、家業に就くことになる。何せ、天下のシンボリ牧場(しかも1人息子だという)である。彼に寄せられる期待はひじょうに大きいものがあるはずだ。

 今年は春夏秋冬の節目ごとに27期生の訓練風景を追い駆けてみたいと思っている。資料によれば4月はさっそく「常歩、速歩、駆歩、シミュレーターによる騎乗姿勢確認、給餌方法、馬房掃除、頭絡の分解、組み立て、馬具の手入れ法、装鞍、脱鞍、乗馬、下馬、手綱の持ち方、手入れ方法、落馬防止訓練、曳き馬、集放牧の方法」とこれだけのメニューが用意されている。まさしく「テンコ盛り」状態。とりわけ馬に接した経験のない若者にとってはなおのこと、のんびり寛ぐような余裕はなくなっているものと思われる。おそらく彼らにとってこの1年間はこれまでの人生の中で最も過密スケジュールとなるに違いない。その様子をまたここでお伝えするつもりでいる。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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