2009年04月29日(水) 11:55
26日(日曜日)にシャティン競馬場で行われた2つの国際競走を取材するため、先週は香港に滞在した。
香港も世界同時金融危機の渦中にある地域で、今年に入って5%を越えてしまった失業率を含めて、景気を示す指標は芳しいものではないが、街中の様子に大きな影響を見出すことは出来なかった。聞けば、続伸していた個人消費はさすがにマイナス成長に転じたものの、それほど大きな落ち込みは見せておらず、実態経済は大幅な下落を見た証券市場ほどは落ちていないというのが現状のようだ。
昨シーズン(07/08年)、前年対比で久し振りに増加した馬券売り上げは、今シーズン(08/09年)、再び下降しているとのことだが、下落幅はわずかなもので、一般景気を鑑みれば上出来というのが、主催者である香港ジョッキークラブをはじめとした関係者の見方であった。
それでも、いつもながらの“攻めの姿勢”を崩さぬ香港ジョッキークラブは、早くも次のシーズンへ向けた施策を打ち出している。来季、彼らがもくろんでいるのは、「売り場の拡大」だ。具体的に言えば、開催日数を今季より5日増加し、なおかつ、サイマルキャストによる場外発売を現行より20日増やせるよう、地元行政府に対して申請を行っているのである。
今季の香港における開催は、ハッピーバレー、シャティンの2場を合わせて78日だから、申請通りに認められれば、来季の開催は83日になる。今季はシーズンの終了が7月1日に設定されているが、これを7月中旬まで伸ばすことで、増加分の5日を施行しようというのが香港ジョッキークラブの構想だ。
香港の夏は高温多湿で、馬にとっても観客にとっても快適な競馬開催が可能なのかと関係者に訊ねたところ、7月になれば上旬と中旬で気候の差はなく、なおかつ、増加分の5日をナイターで開催すれば、シーズンを後ろに伸ばすことに問題はないという回答だった。
更に、申請通りに認可されれば劇的な「売り場面積拡大」につながるのが、サイマル発売に関する項目だ。現行ではシーズンを通じて10レースに限定されている国外レースのサイマル発売を、現行プラス「20日間」行えるよう、申請しているのである。20日というのは、20レースという意味ではない。申請は20日間であるからして、例えば1開催日ごとに6レース発売すれば、120レースの発売増加につながるのである。
07/08シーズンには、地元とサイマルを合わせて740レースだった「売り場」が、主催者の構想通りに事が運ぶと、09/10シーズンには900レース以上に拡大するのだ。地元開催日の増加は、運営コストが嵩むだけに、そこだけ見ると利益率が下がることが予測されるが、低予算で運営出来るサイマル発売を大幅に増やすことで、売上げ全体を伸ばした上で、総体的な利益率も高めようというのが、香港ジョッキークラブの目論見なのである。現行、香港で発売されている日本のレースは、安田記念とジャパンCの2つのみだが、サイマル発売日が増えれば、発売される日本のレースも増えることが予想される。
香港の競馬ファンにとって縁もゆかりもないレースを発売して、果たして売れるものなのかと関係者に訊ねたところ、例えばウオッカのような、世界的に名の通った馬が出走するレースであれば、相応の売り上げを期待できるというのが回答であった。更に、英国のダービー、仏国の凱旋門賞のような世界の主要レースを発売することで、競馬とはグローバルなスポーツであると、ファンを啓蒙する目的もあるのだと、答えてくれた香港ジョッキークラブの担当者は胸を張った。
香港行政府は目下、第三者機関の意見も聞きつつ、認可するかどうかを検討しており、遅くとも5月中には結論が出ると見られている。実益を追求しつつ、志も高く持とうという香港競馬主催者の提案が受け入れられるか。行政府の下す判断に注目したい。
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合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。