2日連続の2歳トレーニングセール その1

2009年05月13日(水) 10:50

 5月11日(月)と12日(火)の2日連続で2歳馬トレーニングセールが開催された。11日は札幌競馬場を会場に「北海道トレーニングセール」(HBA日高軽種馬農協主催)、翌12日は浦河にあるJRA日高育成牧場にて「ひだかトレーニングセール」(ひだか東農協)がそれぞれ行われた。

 札幌〜浦河間は、距離にして約180km。高速道路(道央自動車道〜日高自動車道)を利用しても、黙って3時間を要する道のりである。11日のセールが終了したのは午後5時半近く。それからすぐ札幌を発ったとしても浦河到着は8時半。購買者にとってもこの距離の移動はおそらく堪えたことだろう。

 さて、まず北海道トレーニングセールから触れる。この日、札幌の天候は晴れていたものの西風が強く、気温もやや低め。そのために体感温度がかなり低く、午前9時の公開調教が始まってからも一向に暖かくならない。日差しはあってもスタンド内は寒く、暖かい飲み物に人気が集中した。とりわけ本州方面からやってきた人々にとっては“真冬に逆戻りした”ような感覚だったはずだ。

セリ会場全景

 札幌はかつて内外ともにダートコースのみだったが、もちろん今は外側に芝コースが設置されており、公開調教は内側のダートコースを使用して実施される。スタンドには多くの購買者や関係者が詰めかけ、基本2頭併走で行なわれる調教を熱心に見つめていた。

 3つのグループに分かれて行われた公開調教には、折からちょうどここで開催中のホッカイドウ競馬所属騎手も騎乗しており、プロアマ混在である。1頭ごとに最後の2Fのタイムが計時され、場内に表示される。依然としてこの公開調教における時計が重視されるが、たとえタイムは同一でも実際の走りに余裕が残っているか、もうギリギリ一杯でこれ以上の上積みなしかで評価が異なってくる。加えて体型、性別、血統なども加味され、購買候補馬が絞られることになる。

ダイアモンドコアの07公開調教

 公開調教が終わると、それぞれ待機厩舎まで赴き、実馬をチェックする。比較展示はない。セリ開始は午後1時。寒いせいで用意されたパイプ椅子に座る購買者もまばらで、強風を避けるためにスタンドに陣取る人々も多く、不安感の漂う中でセールが始まった。

スタンド内で調教を見守る

 この日の上場馬は142頭(牡77頭、牝65頭)。前年比で39頭の減と少なくなったが、終わってみれば落札は86頭(牡45頭、牝41頭)と前年を4頭上回り、売却率は一気に15%も上昇する結果となった。

 売却総額は4億6368万円。平均539万1628円。こちらもそれぞれ総額で約3000万円、平均でも9万円ほど前年を上回った。

 なお最高価格馬は44番「ダイアモンドコアの07」(父スペシャルウィーク、牝・栗毛、伊達・高橋農場生産、浦河・愛知ステーブル飼養管理)で、2467万5千円。母ダイアモンドコア自身も南関東公営で活躍したが、1歳上の兄にはナイキハイグレード(羽田盃、京浜盃、ハイセイコー記念の勝馬)がいる名血で、激しい競り合いの末に(有)ビッグレッドファームが落札した。

ダイアモンドコアの07セリ風景

 また、昨年に続いて、このセールを下支えしたのは、岩手県馬主会や熊本県馬主会、JBBA日本軽種馬協会(韓国用の2歳馬を購買)などの団体で、合わせて27頭を落札。実に全体の3割強の数字である。これら団体購買もほとんどがそうだが、全体的に価格帯としては、86頭中48頭が400万円(税抜き)以下に集中しており、主取り馬56頭を含めると、おそらく上場馬の大半が原価割れという厳しい現実がある。

ダイアモンドコアの07立ち写真

 さらにセールを見ていて強く感じたのは、再上場馬がかなり多かったことだ。団体購買の場合、例えば岩手県馬主会は翌日のひだかトレーニングセールまで足を伸ばす予定はなく、ここで予定頭数を全て揃えることになっていたようで、セールの途中からは再上場馬の姿がより顕著となった。

厩舎で展示

 馬主会単位での購買には補助金が出ることと、以前この欄でも触れたように、「市場取引賞」なる名称の奨励金(中央40万円、地方20万円、但し2歳戦に優勝した馬に1回のみ。地方の場合には当該競走の1着賞金額を上限とする)が交付されることになっているのが“追い風”として作用したものか。

 売却率60%はかなりの健闘と言えるものの、依然として売る側と買う側との希望価格が大きく隔絶していることに変わりはなく、しばしば鑑定人が場内からのサインに絶句、呻吟する場面が目立った。販売申込者がお台付け価格を500万円と設定していても、場内から300万円と声がかかれば、その差は200万円。これは無視できない落差なのである。ほぼ1歳秋から2歳5月までの間の育成費用に相当する金額であり、しばし鑑定人は横に控えている販売申込者と“相談”することになる。

 その結果、購買希望者の意向を受け入れ300万円からスタートするか、そのコールに応えずに500万円スタートを強行するかは販売申込者の胸一つである。強行した結果、誰からも声がかからずに主取りとなった馬が、今度は価格を大幅に値下げして再上場されるケースが目立った。

 なお、ひだかトレーニングセールの模様については次週に。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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