クリスフライヤー・スプリント報告

2009年05月19日(火) 23:59 0

 好メンバーが揃い充実した戦いが展開されたシンガポールのインターナショナルC(5月17日、クランジ競馬場)だったが、そのアンダーカードとして行われた1200mのクリスフライヤー・スプリントも、なかなかの好戦であった。

 勝ったのは香港から遠征したトップスプリンターのセイクリッドキングダムだったが、レースをおおいに盛り上げたのは2着のロケットマンというのが、その構図であった。

 オーストラリア生まれのロケットマン(父ヴァイカウント)は、3歳シーズンを迎えた昨年秋にシンガポールでデビュー。破竹の快進撃でここまで来た、新進気鋭の若手スプリンターだ。前走までの戦績、7戦7勝。1200m戦ばかりを使われ、他馬に馬体を並べられてゴールをしたことがない。すなわち、2着との着差が最も小さかったのが、重賞初挑戦となった昨年11月のオーキッドTで、2着パワフルルーラーと1.3馬身差(シンガポールでは、こういう着差表示をします)が、これまでで一番の辛勝だった。初G1となった前走のライオンシティーCも、古馬を相手に好タイムで完勝。スター誕生を確信したシンガポールのファンは、欧州、豪州、香港、中東から集まった快速自慢たちを差し置いて、彼を単勝2倍という圧倒的1番人気に支持した。

 スピード豊かで、しかもそれを戦略的に使えるのが強みのロケットマン。この日も好スタートから、ミシカルフライトが行く気を見せると2番手の内埒沿いで折り合い直線へ。ここで更に加速して先頭に立ち逃げ込みを図るところに、計ったように差してきたのが香港のセイクリッドキングダムだった。

 デビューから8戦7勝という成績で臨んだ07年の香港スプリントを快勝したセイクリッドキングダム。実は昨年のこのレースにも出走を予定したのだが、壮行戦となったG2ゴムスプリントを制した後、左前脚種子骨に亀裂骨折を発症。遠征を断念することになっただけでなく、年内を休養に充てることになったため、連覇がかかった昨年暮れの香港スプリントも見送ることになった。

 今年2月に復帰したセイクリッドキングダムだったが、ここまでの道は平坦ではなかった。負けても2着は外さなかった堅実派が、いずれも連に絡めぬ戦いぶりで3連敗。前走G2スプリントCでようやく復帰後初勝利を挙げたものの、さほど強いとは思えぬ相手にハナ差の辛勝で、かつての力を維持出来ているか訝る声が多かったのが、この一戦を前にしたこの馬に対する評価だった。

 だがセイクリッドキングダムは、サイレントウィットネスの跡を継ぐのはこの馬と言われた頃の輝きを取り戻していた。道中はロケットマンの直後に付け、直線でロケットマンが先頭に立つと、獲物に襲いかかる鳳のように襲いかかり、激しい抵抗を見せる若き快速馬を力でねじ伏せて快勝。レース後関係者は、次走は英国に遠征してロイヤルアスコットのG1ゴールデンジュビリーに挑む可能性を示唆した。

 一方、生涯初の敗戦を喫したロケットマン。だが、トラックレコードで駆けた勝ち馬にクビ差の2着は、まさに敗れてなお強しの印象である。今後は、12月の香港スプリントを究極の目標に、キャンペーンが組みたてられる予定だ。私たち日本のファンとしては、ぜひ秋のスプリンターズSに来日して欲しい馬たちである。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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