2009年06月02日(火) 23:59
日本に続いて今週は英国で、牡馬と牝馬の3歳クラシックが春のクライマックスを迎える。
エプソム競馬場の12f10yを舞台とした頂上決戦。まず5日(金曜日)に行われる牝馬のオークスには、5日前登録の段階で12頭がエントリー。様相としては、3強による三つ巴の状態となっている。
中でも、ブックメーカー各社が3.5倍前後のオッズで1番人気に掲げているのが、サリスカ(父ピヴォタル)だ。2歳11月にニューマーケットの7fのメイドンでデビュー勝ち。今季初戦として走った1000ギニートライアルのG3ドバイデューティフリーS(7f、ニューバリー)では4着に敗れたが、その後イギリスにおける代表的なオークスプレップのミュージドラS(10f88y、ヨーク)に駒を進めて、ここを3.3/4馬身差の快勝。父はマイル色の強い血脈だが兄に14fの準重賞で2着となったガルウィングがいることから、スタミナ面での不安はないと見られている。
これに続くのが、各社4倍から4.5倍のオッズを掲げるレインボウビュー(父ダイナフォーマー)だ。御存知、3冠緒戦の1000ギニーで圧倒的1番人気を裏切り5着に敗退した馬である。
2歳時の戦績4戦4勝。G1フィリーズマイルを含めて、他馬に2馬身以上迫られたことがなく、過去20年で最強の2歳女王の呼び声すらあった彼女にとって、1000ギニーは記憶から消したい悪夢となった。そうでなくても馬場が固かったところへ、雨予報だったために主催者が散水を行なわず、挙句に予報が外れて雨も降らず、当日のニューマーケットは砂埃が舞うという、英国では滅多にお目にかかれぬ固い馬場となった。返し馬の段階から馬場を気にしていた彼女は、全く動けず。幸いにして今週のエプソムは適度に湿り気を帯びた馬場で、彼女が力を出せる環境は整った。あとは、彼女自身が前走で受けた精神的ダメージを引きずっていないかどうか、である。
各社4.5倍から5倍のオッズでこれに続くのが、ジャドモンド・ファームの自家生産馬ミッデイ(父オアシスドリーム)だ。2歳時の戦績4戦1勝。準重賞のモンロゼフィリーズS・4着が最高のパフォーマンスでは、アンティポスト戦線でほとんど名前が挙がっていなかったのも当然だった。今季初戦のエプソムの条件戦で、その後ダービーに駒を進めることになる牡馬のドビュッシーの2着となって株が急上昇。今季2戦めに選んだリングフィールドの準重賞オークストライアルSを6馬身差で圧勝し、3強の一角に名を連ねるまでになった。父はスピード系だが、おばにオークス馬リームズオヴヴァースがおり、牝系はスタミナ豊富。エプソムを経験しているのも強みである。
同じエプソムの12f10yを舞台に、6日(土曜日)に行われる牡馬のダービーは、10倍以下に5頭がひしめき合うという、近年にない混戦模様となっている。
ブックメーカー各社が3.5倍から4倍のオッズを掲げて1番人気に支持しているのが、ここまで4戦4勝の負け知らずで来ているフェイムアンドグローリー(父モンジュー)だ。
しかも4勝のうち3勝が重賞。前走、本番へ向けてのファイナルチューンとして走ったレパーズタウンのG2ダービートライアルSも、アガ・カーンの期待馬ムーラヤンに5馬身の差をつける完勝だった。重厚なドイツ血脈を背景とした牝系に、既に2頭の英ダービー馬を出している父が配合され、血統的にもエプソムの12fは「持って来い」の本馬。死角らしい死角の無い本命馬と言えよう。
各社4倍から4.5倍の2番人気に推しているのが、2000ギニー優勝馬シーザスターズ(父ケープクロス)だ。
母が凱旋門賞馬アーバンシーで、兄姉にガリレオをはじめ3頭のG1ホースがいるという、世界でも最も美しい血脈を持って生まれた同馬。シーズンオフのアンティポスト戦線では、2000ギニーよりもむしろダービーで人気になっていた馬で、そんな背景を持つ馬が2000ギニーを快勝したのだから、89年のナシュワン以来となる2冠への期待が高まるのは当然である。敢えて不安材料を探すとすれば、固めの馬場でスピード決着となった2000ギニーの勝ち方が鮮やか過ぎたことか。父ケープクロスは、オークス馬ウィジャボードらを出しているものの、本質はマイラー。エプソムでの我慢比べに耐えられるかどうか、一抹の不安は残る。
各社6倍から7倍のオッズで3番人気に付けているのは、これも2000ギニー組のリップヴァンウィンクル(父ガリレオ)だ。母はイタリアで現役生活を送った馬で、自身もイタリアのイヤリングセールで発掘されたという異色の経歴を持つ同馬。2歳7月にレパーズタウンで行われた7FのG3タイロスSを快勝し、2000ギニーでもダービーでも前売り上位人気に推されることになった。レース5日前に挫石を発症し、一時は出走が危ぶまれるというアクシデントを乗り越えて迎えた今季初戦の2000ギニーは4着。力のあるところを見せつけている。
各社8倍から9倍のオッズで4番人気に推されているのが、ダービーへ向けた代表的プレップレースのG2ダンテS(10f88y、ヨーク)を制したブラックベアアイランド(父サドラーズウェルズ)だ。
02年の英国ダービーを制した他、連覇を果たしたBCターフなど、5つのG1を制した近代の名馬ハイシャパラルの全弟という同馬。今季初戦となったロンシャンのG3ラフォルス賞が、勝ち馬に4.1/2馬身置き去りにされる3着という案外な競馬だったため、ダンテSにおけるファンの支持は6番人気という低いものだったが、道中最後方から息の長い末脚を発揮して優勝したレース振りは、さすが良血馬と思わせるものがあった。スタミナ比べになればこの馬、と見る関係者は多い。
ブラックベアアイランドとほぼ横並びの人気になっているのが、2000ギニー3着のガンアムラス(父ガリレオ)だ。
デビュー2戦目のメイドンで初勝利を挙げた後、ゴフスのボーナスレースが2着という2歳時の成績は、それほど目立つものではなかったが、それでも2000ギニーで8.5倍の5番人気と有力馬の一頭に数えられたのは、管理調教師ジム・ボルジャーがこの馬の素質の高さをアピールするメッセージを送り続けたからだ。これに応えて3冠緒戦で好走した同馬。ダルシャーン牝馬にガリレオという配合は、明らかに8fよりは12f向きであろう。
さて今年のダービーは、5日前登録の段階で13頭がエントリーしたが、なんとこのうち6頭がエイダン・オブライエンの管理馬だ。ここで挙げた上記人気馬の中にも、フェイムアンドグローリー、リップヴァンウィンクル、ブラックベアアイランドと3頭のオブライエン勢がおり、それぞれ誰が騎乗することになるかが、大きな焦点となっている。言うまでもなく、主戦のジョニー・ムルタが乗る馬が、直前で急激にオッズを下げることになるはずだ。
また、そのオブライエン軍団を含めて、登録13頭中8頭がアイルランド調教馬だ。御紹介した上位人気5頭も全てアイルランド勢で、英国調教馬にとっては「庭を貸すだけ」という、屈辱的な結果となる公算が強まっている。
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合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。