充実の欧州古馬ミドルディスタンス戦線

2009年06月09日(火) 23:50 0

 欧州における芝平地シーズンが幕を開けて2か月半が経とうとしているが、開幕前の予測よりも遥かに面白い展開になっているのが、古馬ミドルディスタンス戦線だ。主役を張れる実力派の役者たちが次から次へとファンを唸らすパフォーマンスを見せ、何やらオールスターキャストの様相を呈してきたのである。

 例えば、5月24日にアイルランドのカラで行われた、距離10f110yのG1タタソールズGC。例年好メンバーが集うこのレース、今年は5頭立てと頭数こそ少なかったが、興味深い顔ぶれによって争われた。

 1番人気が昨年のフランスダービー2着馬フェイマスネーム(牡4歳)。2番人気が、G1・4勝馬ピーピングフォーンの半弟というエイダン・オブライエン厩舎の期待馬ザウェイユーアー(牡4歳)で、3番人気が、昨年の愛ダービー2着、英ダービー3着馬カジュアルコンクエスト(牡4歳)。4番人気が、ヨークシャーオークスをはじめ昨シーズン3つのG1を制したラッシュラッシーズ(牝4歳)という、中身の濃いメンバーとなったこのレース。勝ったのはカジュアルコンクエストで、2着のフェイマスネームに5.1/2馬身差をつける圧巻のレースぶりだった。今後のローテーションは、最大の目標を秋の凱旋門賞において、検討されることになるようだ。

 2着馬フェイマスネームは、Heavyという極悪馬場に殺された感じ。馬場さえよければ、今後のビッグレースでの巻き返しが充分にありそう。今季初戦で牡馬相手に3着となったラッシュラッシーズも、今後への期待を抱かせてくれるレースぶりだった。

 あるいは、5月28日にイギリスのサンダウンで行われた、距離10f7yのG3ブリガディアジェラードS。ここで今季初めてファンの前に姿を見せたのが、昨年秋、3歳3冠最終戦のセントレジャーとアメリカのBCターフを連勝したコンデュイ(牡4歳)だった。この段階でブックメーカー各社が凱旋門賞へ向けた前売りで1番人気に支持され、つまりは今季のこの路線を背負って立つことが期待されている同馬。結果から言うとブリガディアジェラードSにおけるコンデュイは2着に敗れたが、7か月振りの実戦、真価を発揮するには短かった距離、勝ち馬より7ポンド(約3.17kg)重かった斤量などを鑑みれば、今季が益々楽しみになるパフォーマンスであった。

 一方、今後への期待感を膨らませたという点では、コンデュイを退けて優勝したチマデトリオンフ(牡4歳)もまた、劣らぬものがある。3歳時はイタリアに所属し、イタリアダービーを制した同馬。その後、社台ファームの吉田照哉氏がトレードで獲得し、今季からニューマーケットのルーカ・クマーニ厩舎に転厩となったが、これは吉田氏の所有馬として03年に世界各国で5つのG1を制したファルブラヴと同じパターンだ。もともとの実力馬が、ニューマーケットのヒースで鍛えられて更にパワーアップ。今季のこの路線の主役の1頭であることをアピールしたのが、ブリガディアジェラードSでのパフォーマンスだった。次走は、ロイヤルアスコットの10fのG1プリンスオブウェールズSが有力と言われている。

 そして、ゴール前で3頭が鼻づらを揃える、エキサイティングな幕切れとなったのが、6月5日にエプソムで行われた距離12f10yのG1コロネーションCだった。

 接戦を制したのは、マイケル・スタウト厩舎のアスク(牡6歳)。ここまでこの路線のG2、G3を4勝している他、一昨年のG1カナディアン国際2着、昨年のG1キングジョージ5着といった実績を持つ同馬。6歳を迎えてようやく本格化したか、今季初戦のG2ヨークシャーCに続いてコロネーションCを連勝し、念願のG1初制覇を成し遂げた。

 キングジョージや凱旋門賞を狙う立場となった同馬。固い馬場は苦手なため、今後のローテーションは、馬場状態を鑑みながら検討されていくようだ。

 ハナ差の2着が、ここで1番人気だったユームザイン(牡6歳)。07年のキングジョージ、07年の凱旋門賞、08年のコロネーションC、08年の凱旋門賞に続いて、この路線のG1で2着になるのはこれが5度目のことだった。「善戦マン」としてのイメージが定着した感のある同馬だが、しっかりと勝利をものにした07年のG1オイロパ賞や、08年のG1サンクルー大賞を含めて、3歳7月以降この路線のメジャーなレースを17戦して1度足りとも5着を外していないという堅実性は、おおいに賞賛されてしかるべきものであると思う。次走はキングジョージの予定だが、どんな馬場になり、どんな展開になっても、上位争いに加わってくる1頭であろう。

 更にハナ差の3着が、昨年のオークス馬ルックヒア(牝4歳)。3着だった昨年のセントレジャー以来8か月半ぶりの実戦で、牡馬が相手だったことを鑑みれば、申し分のないパフォーマンスだったと言えよう。今後は、エクリプスSからキングジョージという、王道を歩む予定となっている。

 一方、ここはいくらか固めだった馬場に泣かされたのが、昨年の愛ダービー馬フローズンファイア(牡4歳)だ。5着とは言え、勝ち馬から4馬身しか離されておらず、今後の大レースがスタミナの争いになれば、一気に浮上する場面もありそう。

 ここは6着に敗れ、期待を裏切ることになったのが、3月にナドアルシバで行われたG1ドバイシーマクラシックの勝ち馬イースタンアンセム(牡5歳)だ。走りっぷりを見ると、エプソム競馬場の大きな起伏に戸惑った節があり、平坦な馬場でもう1戦見てみたいというのが、現時点での筆者の評価である。

 この他、4月25日にサンダウンで行われた距離10f7yのG3ゴードンリチャーズSで今季初登場し、ここを見事に白星で飾った昨年の英ダービー2着馬タータンベアラー(牡4歳)や、4月26日にロンシャンで行われた2100mのG1ガネー賞を快勝した、昨年の仏ダービー馬ヴィジョンデタ(牡4歳)などもいる、今季の欧州古馬ミドルディスタンス戦線。有力各馬がこのまま順調にシーズンを過ごしていけば、総決算の凱旋門賞は史上空前の戦いになるかもしれない。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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