2009年06月10日(水) 10:55 0
4月より今年度の開催がスタートしているばんえい競馬だが、帯広市による単独開催となって今年で3年目を迎えたものの、年を追うごとに厳しさが増しており、「存廃問題の再燃」さえ囁かれる事態に陥っている。
開幕早々、4月下旬にも拘わらず時期はずれの寒気に直撃された十勝地方では大雪に見舞われ、帯広競馬場は入場人員、売り上げともに前年を下回った。その後、5月25日までの開幕1か月(15日間)を消化した段階で、売り上げは10億8482万6100円。計画比7.79%、前年比7.42%、とそれぞれ大きく下回っている。1日平均では7232万1740円。
何より帯広競馬場の売り上げ減が大きい。15日間の帯広競馬場への入場者数が2万7269人と、前年よりも8.41%も下落したことから、本場の売り上げもまた15日間を通じて3億1247万円と、入場者数とほぼ同じ8.42%もの落ち込みとなった。
道内6箇所ある直営場外での売り上げも15日間を終えた段階で5.61%減。またネットと電話投票も7.16%の減少と散々である。
昨年、5月早々よりナイター開催に踏み切ったが予想外に振るわなかった反省から、今年は開始を6月20日(土)まで引き延ばし、代わりに薄暮開催を導入したりもしている。だが、昼間の開催より1時間ずれただけのいかにも中途半端な時間帯のせいか、効果は今のところ見えていない。
ほとんど廃止に傾いていたばんえい競馬が一転して存続することになったのは2年半前の2006年暮れのこと。ソフトバンク系列の「オッズパーク・ばんえいマネジメント」(OPBM)が運営を受託し、新生ばんえい競馬がスタートしたのは2007年春である。しかし、売り上げ不振により、OPBM社の2008年度決算は約6500万円の赤字見込みで、そのため、同社は帯広市に対し「ばんえい競馬財政調整基金」(5000万円)の取り崩しを求めたと伝えられる。
「ばんえい競馬財政調整基金」とは、2006年度にそれまで道内4市で構成されていた「北海道市営競馬組合」が解散して帯広市単独開催へ移行することになった際、ばんえい競馬支援のために創設されたものだ。当初、旭川、岩見沢、北見、帯広各市が各々5000万円ずつ拠出し2億円の基金を積む予定になっていたが、帯広を除く3市が支払いを拒否し、結局帯広市だけが5000万円を出した経緯がある。
OPBMの藤井宏明社長は、地元紙の取材に対し「赤字、黒字という観点でばんえい競馬からの撤退は考えていない」としながらも、「ばんえい競馬を地域がどうするのか。必要なのかそうでないのか。あくまで地元がどうするのかを考えて欲しい」と語っている。
「全員参加型」でばんえい競馬を盛り上げよう、と帯広市による単独開催が正式決定した時の精神に立ち返ることを藤井宏明社長は求めているのだろうと思う。ばんえい競馬が徐々にトーンダウンしつつある現状に鑑みて、「果たしてばんえい競馬は皆さんにとって本当になくてはならない存在なのですか?」と改めて問いかけているのである。
いずれにせよ、基金を取り崩しOPBM社への赤字補填として5000万円が充てられる補正予算案が今月開催中の帯広市議会で可決される予定である。その時点で、ばんえい競馬は“蓄え”を全て吐き出すことになり、自主財源を失う。帯広市が単独開催に踏み切った際の約束事として「一般会計からの赤字補填はしない」ことが条項にあったはず。
あくまでも「自立」「独立採算」が存続するための必須条件。だが、これは口で言うほど簡単なことではない。
それにしても、ばんえい競馬を取り巻く帯広市、OPBM、十勝農協連(帯広競馬場の所有者)が、三者それぞれに拱手の構えで静観を決め込んでおり、火中の栗を誰も拾おうとしない図式に見えてしょうがない。「道の駅」を競馬場に作る計画は頓挫したまま具体的な話は何も進んでいないとも聞く。OPBMの藤井社長は「市の出方を待つ」意向のようで、主催者である帯広市が、ばんえい競馬を今後どのような方向に導こうとしているのかが注目される。
田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。