2009年07月16日(木) 13:10 0
7月13日~15日にかけて苫小牧市のノーザンホースパークを会場に開催された「セレクトセール2009」は現下の経済状況を反映してか、数字上では昨年をかなり下回る成績に終わった。
これをどう受け止めるかによって見方はかなり変わるが、「後退」というよりも、「ようやく常識的な市場になってきた」と考えた方が良いのではなかろうか。
【初日、1歳市場】
13日は、朝から豪雨に見舞われるあいにくの空模様。上場馬は前日(日曜日)より会場入りしているため、各個に購買者が馬房を訪れ目当ての馬を見て歩く。一歩も外に足を踏み出せないくらいに雨がひどく降る時間帯もあり、傘や雨具が手離せない。
せり開始は12時。リザーブ価格まで鑑定人が数字をどんどん上げて行くので、落札されたかどうかが判然としない。どの馬も「○○○万円、○○○番のお客様、ありがとうございました」と場内に告げられるため、各所に設置されたモニターで結果を確認するしかないのだが、場内にいると、何となく“雰囲気”で分かることもある。ある程度以上の価格までせり上がって行く馬はもちろん売れており、また鑑定人が場内に目を配りながら購買希望者の意思を交互に確認しつつ進行している場合もほぼ売れたと見做してよい。
だが中には、名血でもともとリザーブ価格が高めに設定されている馬の場合は、どんどん価格が上昇して行っても安心できない。売れたとばかり思っていた馬が実は主取りだったケースが何頭もいた。
この日の上場は156頭(欠場5頭)、122頭が落札され売却率は78.2%。26億9940万円(税抜き)を売り上げた。平均価格こそ昨年よりわずかに下回ったものの、総額では約3億5200万円前年を上回り、売却率もまた8.7ポイント上昇した。なお1億円以上のミリオンホースは3頭である。最高価格馬は65番「マイケイティーズの2008」の1億4500万円(税抜き)。アドマイヤムーンの半弟で、父ロックオブジブラルタル。(有)ビッグレッドファームが落札した。
【2日目、当歳市場初日】
前日とは一変し、この日はいかにも北海道らしく爽やかな晴天に恵まれ、絶好のコンディションだった。
当歳は事前に比較展示が実施される。木々の生い茂る展示会場に親子連れの上場馬が並ぶ景観はいつもながら素晴らしい。
セレクトセールが最も注目を集めるのがこの当歳初日だ。多くの取材陣が忙しく走り回り、高くなりそうな上場馬にレンズを向ける。
せり開始は11時。この日はほぼトーセンの冠名で知られる島川隆哉氏の独壇場で、3頭のミリオンホースを全て競り落とした。最高価格馬275番「ウインドインハーヘアの2009」(父ダイワメジャー)1億6500万円を筆頭に、235番「エヴリウィスパーの2009」(父ディープインパクト)1億5500万円、306番「マイケイティーズの2009」(父シンボリクリスエス)1億2500万円と金銀胴いずれも獲得し、取材陣に取り囲まれてインタビューに応じる姿が見られた。
セレクトセール常連の大御所たちはやや冷静で、全体的には価格は沈静化している。2日目は174頭の上場で落札118頭。売却率67.8%。総額30億7370万円。平均約2605万円。社台グループが78頭中75頭を売却しているのに対し、非社台系の上場馬は96頭中43頭の売却にとどまり、率にして45%しか売れていない。落札馬の平均価格でも社台グループ3148万円に対し非社台1657万円とほぼダブルスコアである。
【3日目、当歳市場2日目】
この日が最終日だが、またしても雨。展示会場にいるスタッフの1人が「12年このセールを手伝っているけどこんなに天候の悪いのは初めてだ」とぼやくほどのコンディションである。
せり開始は前日同様11時。ただ高額馬が初日に集中していたことと、すでに予定頭数を落札し参加を控えている購買者もいて、前日ほどの勢いはない。146頭が上場されたが89頭の落札にとどまり、61%の売却率に終わった。57頭の主取り馬は大半が非社台系からの上場で、ほぼ交互に上場馬が社台、非社台と並んでいることから、落札、不落札もまた交互に並ぶ構図となった。
当歳は2日間で320頭が上場され207頭が落札。64.7%の売却率で総額も49億1320万円と前年比24億円もの大幅な下落となり、加熱気味だった昨年までとは異なって、かなり厳しい結果に終わった。
セール後、主催者を代表して吉田照哉氏が3日間を振り返り「確かに価格は落ちたが、私はもっと最悪の結果も予想していたので、点数をつけるとすれば95点くらい。昨今の経済情勢を考えたら、やむを得ない数字だと思う。価格は下落しているが売却率は大して変わっていないのと、新しい層の購買者が参入してきいているのでプレーヤーの数は減っていないと考えている」と語った。
「むしろこの不況の中、よくここまでご購買いただいたことに感謝したい」ともコメントした。なお、来年以降のセール形態は、これまで主流となっていた当歳市場から1歳市場へとシフトすることにも言及し「購買者のニーズに合わせた形にして行かなければならぬと考えている」と語った。来週には日高で「セレクションセール」が開催されるが、「今後セレクションとの合体の可能性は?」と問われると照哉氏は言下にそれを否定し「主催者が違うセールをそれぞれ開催し競争するからこそ意味がある」とも語り、別々の路線を歩むつもりでいることを強調した。
3日間の中には様々な出来事があったが最後に一つだけ書いておきたいことがある。今回から報道関係者に対する規制が厳しくなったが、これはそもそも「得体の知れない人間の排除」が主たる目的であったとも聞く。私たちは従来のプレス章に加え、一様に同じオレンジ色のベストを着用することとなった。
また、予め取材申し込みをした人間は所属媒体名や取材原稿の発表場所なども明記するよう求められ、これだけでかなりの効果があったものと思われる。そのせいか今年に限っては、高額落札馬の撮影場所でもカメラマンがごった返すような場面はほとんどなかった。
この「身分確認」はやはり効果があったようで、3日目にはついに、飲食ブースから大量に飲み物を持ち去ろうとした若者4人組が不審な行動を見咎められ、警察沙汰になる事件も起こった。持ち去ろうとしたジュースは200本とも言われているが、以前より無料をいいことに、飲食ブースではこうした目に余る持ち帰りに対する苦情のあったことも事実だ。それにしても、200本とは! 何とも呆れた話ではある。個人が自分の分だけを受け取るならば、1回に1本である。仲間の分まで受け取るにしてもせいぜい数本。この若者たちは何度も数十本ずつせっせと運んでいたようなので、流石にそれではあまりにも目立つ。やれやれ。
田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。