2009年07月28日(火) 23:59
欧米の主要な1歳馬市場では最も早い時期に行われる「ファシグティプトン・ケンタッキー・ジュライ・セレクト・イヤリングセール」が、7月20日・21日の両日にわたって、アメリカ・ケンタッキーのレキシントンで行われた。
2日間で424頭が上場されたうち268頭が購買され、市況は、総売り上げが前年比26%ダウンの2,082万ドル、平均価格が15.8%ダウンの77,716ドル、中間価格が26.7%ダウンの55,000ドル、昨年38.8%だったバイバックレートが今年は36.8%となった。
昨年秋から欧米の主要マーケットでは、総売り上げや平均価格の3割ダウン、4割ダウンが当たり前だったことを鑑みれば、まずは想定の範囲内の結果というのが、多くの関係者の見るところだ。殊に、5万ドルから10万ドルという中間の価格帯で需要が厚く、結果としてバイバックレートが前年を下回ったのは、業界全体にとって明るい話題と言えよう。
もっとも今年の総売り上げは、この市場としてはピークだった04年と比べると、46%もシュリンク。わずか5年の間にマーケットが半分近くに縮小してしまったのだから、ダメージは深刻である。
このところアメリカでは株価が徐々に回復。新規住宅着工件数が前年を上回るなど、ようやく景気の底打ち感が広まりつつあり、専門家の分析によれば、7-9月期の米GDPはプラス成長に転じる可能性が高いようだ。競馬業界としては、一般景気とともに今後の競走馬市場もプラス成長に転じてくれることを、切に願うばかりである。
最高価格馬は、2日目の序盤に登場した上場番号250番。牡馬を含めて、今年の北米における最強3歳馬と言われる女傑レイチェルアレクサンドラを輩出した、メダグリアドローを父に持つ牝馬である。母ティングアフォリーはアルゼンチン産馬で、祖国で重賞3勝。叔父にも、アルゼンチンでG1・2勝のカンペシーノがいる牝系である。購買したのは、モハメド殿下の代理人のジョン・ファーガソン氏で、価格は42万5千ドルだった。
最高価格馬を含めて、2日の開催を通じて25万ドル以上で売れた9頭のうち、実に4頭がメダグリアドロー産駒。まさに今、売れ筋の種牡馬と言えそうだ。
なお、日本人による購買は、残念ながら無かった模様である。さて、北半球のイヤリングセール・サーキットはこの後、8月10日・11日に両日にわたって、アメリカ・ニューヨーク州のサラトガで、「ファシグティプトン・サラトガ・セレクト・イヤリングセール」、続いて大西洋を越え、8月14日から17日まで、フランスのドーヴィルで「アルカナ・オーガスト・イヤリングセール」が開催される。
実はこの両セール、いずれも上場馬の質がメチャクチャ高いと、大評判になっている。前述したように、世界の競走馬市場は低迷期が既に数年に及び、生産者の経済は相当に疲弊していることが予想される。その結果として、これまでなら生産者が手元に残したはずの良血馬が、サラトガやドーヴィルといった各国のプレミア・マーケットに出回るようになったのであろう。
例えばサラトガには、前述した「売れ筋」のメダグリアドロー産駒が8頭エントリーしている他、06年の全米年度代表馬インヴァソールの弟(父ディストーテッドヒューモア)、昨年の2歳牝馬女王スターダムバウンドの妹(父ライオンハート)、今年のG1ウッドメモリアルS勝ち馬アイウォントリヴェンジの妹(父テイルオブザキャット)、母がG1アベイユドロンシャン賞勝ち馬インペリアルビューティーの牝馬(父キングマンボ)、BCジュヴェナイルを制した2歳王者スティーヴィーワンダーボーイの妹(父バーナーディーニ)、ロイヤルアスコットのG1コロネーションS勝ち馬メイズコーズウェイの弟(父ストームキャット)らがスタンバイしている。
更にドーヴィルには、先週土曜日に行われたキングジョージの優勝馬コンデュイを輩出したダラカニの仔が10頭、英国2冠馬シーザスターズを出したケープクロスの仔が4頭、愛ダービーの勝ち馬で凱旋門賞前売り1番人気に推されているフェイムアンドグローリーを輩出したモンジューの仔が16頭、デビューから無敗で仏オークスを制したスタセリタを出したモンズーンの仔が9頭など、トップサイヤーの産駒が目白押しだ。活躍馬の近親では、凱旋門賞馬サガミックスの弟(父モンジュー)、伊ダービー馬ジェントルウェーブの弟(父モンズーン)、ドバイワールドC優勝馬エレクトロキューショニストの弟(父ストームキャット)、英1000ギニーと英オークスの2冠を達成したカッツィアの妹(父ガリレオ)、今年の仏ダービー馬ルアーヴルの妹(父パントルセレブル)、今年の仏2000ギニー勝ち馬シルヴァーフロストの弟(父ポリグローテ)などが上場を予定している。
こうした市場の結果も、追ってこのコラムで御報告したいと思っている。
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合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。