2009年08月11日(火) 23:00 0
先週あたりからようやく日高も夏らしい天候になってきた。ほぼ1か月ぶりの好天である。例年6月下旬から7月上旬にかけてピークを迎える一番牧草の収穫作業が中断したままになっていた牧場も多く、待ち構えていたようにここ数日トラクターのエンジン音があちこちから聞こえてくる。
終わってみれば、今年の7月は間違いなく史上最低の天候であった。平年の三倍の雨量と半分以下の日照時間とも言われており、北海道も本州の梅雨と変わらぬ気候になりつつあるような気がする。
さて、このほど日本軽種馬協会東北支部から「平成21年生産、サラブレッド系当歳馬名簿」というA4サイズの冊子が届いた。青森県を中心とした東北地方で今年生産されたサラブレッド当歳馬が掲載されている名簿だ。牧場別、種牡馬別索引もあり、全馬ブラックタイプで紹介されている。
しかし、気になるのはこのところ年々生産頭数が減り続けていること。現下の経済状況ではそうそう増えようはずもないのだが、それにしても、一昨年(平成19年)には、このエリアで184頭が生産されていた(うち青森県158頭)のが、昨年には127頭にまで減少し、ついに今年は103頭というところまできた。
内訳は青森県が30牧場で98頭、宮城県が5牧場で5頭である。具体的に名前は挙げないが、かつて盛んに軽種馬を生産していた老舗の牧場が、今は廃業もしくは休業してしまっている例が目立つ。例えば今この手元にある2000年度の「サラブレッド全国馬名簿」と比較するとその落差がより大きくなる。2000年には青森県内だけで74牧場が約250頭のサラブレッドを生産していた。それ以外の岩手、宮城、福島などの各県でも計60頭。東北地方全体では軽く300頭を超える頭数である。
わずか10年足らずで、ほぼ三分の一まで生産規模が縮小してしまった原因はどこにあるのか。地方競馬の低迷や不景気、生産者の高齢化と後継者不足など、思いつくのはそんなところだろうが、一言で言うならば要するに、生産が生業として成り立たなくなってきたということである。
何もこうした傾向は青森県に限らない。規模の違いこそあれ、日高もまた似たような方向へと進みつつある。依然として日高はサラブレッドの主要生産地であり、未だに多くの牧場が軒を連ねるが、確実に生産牧場数と生産頭数は漸減し続けており、その傾向に歯止めがかかっていない。
まさか競馬がなくなることはないだろうと多くの生産者は考えているが、大手に伍して生産を続けるのはもう限界だという声があちこちから聞こえてくる。すでに1000軒を切っている日高の生産牧場数は、おそらく将来的には半数以下になるだろう。後継者がいないからである。5年後にはまだ元気でも、10年後の保証はない。そんな牧場が多い。体力に加えて資本力の問題もある。すでに多額の借財を抱えながらの経営を余儀なくされている生産者は、余力がなくなっている。
再来週にはいよいよ「サマーセール」が開催予定である。5日間の日程で全1193頭が上場予定だという。ある意味でこの市場が最も生産界の今の景気を反映する。昨今の経済状況から判断するならば、おそらく厳しい結果が待っているだろうと考えざるを得ないが、ともあれ成り行きを見守りたい。
田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。