2009年08月18日(火) 23:00 0
中央競馬の宝塚記念に相当するのが「ばんえいグランプリ」である。ファン投票によって出走馬が決定される夏の一大イベント。今年は8月16日(日)に行われた。
ちょうど帯広は今が暑い盛りだろうと覚悟して現地へ向かったのだが、曇りの天候で意外に涼しい。涼しいを通り越して寒いくらいの気温。半袖ではいささか辛いほどで、長袖を持って来なかったことを後悔したほどだ。
帯広競馬場の駐車場は、白樺通りを挟んだ向かい側と競馬場側の二箇所あり、普段はだいたい競馬場側だけで間に合っている。しかしお盆でもあり、16日はさぞかなりの混雑と予想していたものの、午後2時過ぎの段階ではまだまだ競馬場側でも余裕があった。
第1レースは午後2時半の発走。メーンの「ばんえいグランプリ」は第11レース。午後8時5分の発走予定。最終12レースは午後8時40分。全12レースのうち、2歳戦は第1レースと10レース。それ以外は3歳以上の条件だ。
それにしても、今更ながら驚くのは、極限まで減額されている賞金体系である。この日のメーン「ばんえいグランプリ」は1着賞金が80万円。2着16万円、3着9万6千円、4着6万4千円、5着4万円。
ただし、まだ5着まであるだけましなのである。1レースは「2歳B-2」戦の9頭立て。1着10万円、2着2万円、3着1万2千円、4着6千円、5着4千円、と一応これも5着までは交付対象。しかし、2レース以降はグンと厳しくなっており、7レースまでは1着9万円、2着1万8千円、3着1万円のみ。4着と5着には賞金がない。
8、9レースも3歳以上の条件戦だが、やはり10万円、2万円、1万2千円と3着止まりである。10レースの「青雲賞」(2歳牡馬OP)になってやっと1着20万円。以下、4万円、2万4千円、1万2千円、6千円となる。ただし、メーンとこのレース、そして1レースの2歳戦の3競走だけが5着までの賞金を交付されるが、他の計9レースは3着までなのだ。
賞金が安いことで知られる高知競馬でも、同じ1着賞金が9万円とはいえ5着まで交付される。しかも、2着以下の割合はばんえいよりも少しだけ高い。つまり全国一低い賞金体系の下、ばんえい競馬の関係者は日々レースをこなしていることになる。
なぜこんなに賞金が安いのか? 言うまでもないことだが、馬券売り上げが少ないからである。なぜ少ないのか? どうやったら売り上げを増やせるか? これはおそらく地方競馬に限らず公営競技全体にとっても「永遠のテーマ」だろう。ばんえいの場合も例外ではなく、決定的な売り上げ増大案をなかなか捻り出せずにいる。唯一期待がかかっているのは今秋からスタートする「5重勝式馬券」の発売だが、これとてネット発売のみ。競馬に先立って競輪ではすでに平塚を筆頭にいくつかの競輪場で実施されているものの(チャリロト)、今のところ「起死回生」と言えるほどの効果を上げているとは聞いていない。
しかし、だからといって他にいかなる方法が考えられるか。場外発売網とて、北海道内に関してはほぼ飽和状態に近い。じわじわと追い詰められつつあるのが現状でろう。
さて、「ばんえいグランプリ」。8頭立てで行われたこのレースは、事前の人気投票順そのままに、1着フクイズミ(尾ヶ瀬馨騎手)、2着にカネサブラック(松田道明騎手)で決まった。ともに松井浩文厩舎所属。
勝ったフクイズミは父コブラテンリュウ、母ヘイセイシルバー(どこかで聞いた名前だがもちろんサラブレッドではない)。8歳になる芦毛牝馬で、これで通算47勝目である。
またこの日は、往年のジョッキーたち10人による「ばんえい十勝マスターズC」も行われ、模擬レースながら迫力満点の手綱さばきを披露した。レースはキングファラオとともに出場した久田守騎手(現調教師)が優勝し、場内から盛んに声援を受けていた。
こうした企画も奏功したようで、この日、今年度開催では初めて売り上げが1億円を突破した。
明日20日にはNPO法人「とかち馬文化を支える会」主催による「未来の帯広競馬場デザインコンテスト」が市内の「とかちプラザ」で開催される。再び存廃問題が再燃しかねない状況にあることを踏まえ、「ばんえい競馬の舞台である帯広競馬場が大きく変わることによって、新たな活路を見出すことができると考え」たこの支援団体が、広くアイデアを公募したものである。すでに8月1日に一次審査を終え、20日は選考を通過した作品の「発表会」となる。果たしてどんな斬新且つ独創的な「デザイン」が寄せられているものか、注目したい。
これとは裏腹に、主催者である帯広市当局の動きが未だ見えてこない。ばんえい競馬の運営を受託しているソフトバンク系列の「オッズパークばんえいマネジメント」藤井宏明社長が、市の姿勢について苦言を呈したのは3月のことだったか。図らずも両者の間に横たわる温度差が露呈した形となり、帯広市はばんえい競馬をどうしようとしているのかが問われることとなった。
以来、半年近くが経過し、そろそろ帯広市はばんえい競馬のグランドデザインを内外に示す時期にさしかかってきている。売り上げ低迷という逆風を押しのけて、あくまで続けるという姿勢を打ち出すのか否か。
「とかち馬文化を支える会」の試みは、こうした市の鈍い動きに活を入れる意味合いもあるように思える。
田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。