凱旋門賞の3つの前哨戦

2009年09月16日(水) 00:35

 9月13日(日曜日)にフランスで、凱旋門賞と同じコース・同じ距離を舞台とした3つの前哨戦が行われた。結論から言えば、印象的なレースを見せて戦線上位に急浮上してきた馬は見当たらず、条件が整ってシーザスターズ(牡3、父ケープクロス)が出走してきた場合には、鉄壁の本命馬となる公算が強まったと言えそうだ。

 まずは、定刻より6分遅れの15時46分にスタートした、牝馬のG1ヴェルメイユ賞。昨年の勝ち馬ザルカヴァも本番へのステッピングストーンとしたこのレースで、単勝2倍の1番人気に推されていたのが、デビューから無敗の5連勝で仏オークスを制し「ザルカヴァの再来か」と言われていたスタセリタ(牝3、父モンズン)だった。道中2番手という、仏オークスと同じポジションから、直線抜け出そうとしたスタセリタ。ところが、鞍上クリストフ・ルメールの思惑通りには馬が弾けず、一旦は先頭に立ったもののゴール前では後続に詰め寄られ、遂に、最も力強い末脚を繰り出した1歳年上のダーレミ(牝4、父シングスピール)に短首差交わされてゴール。スタセリタの連勝は5でストップした…。と、誰もが思った。

 出走各馬がスタンド前に引きあげてきたあたりで審議のコールがあり、場内のスクリーンにはレースの模様が何度も映し出されたのだが、場内の観客も場外でモニターを見ていたファンも、どこで何が起きてどの馬が審議の対象となっているのかわからぬまま、時間だけが経過。そのまま次のニエル賞の発走時刻となり、ニエル賞が確定して表彰式も終わった後、唐突にヴェルメイユ賞の表彰式が始まり、ステージに上がったのはスタセリタの関係者であった。

 1着入線のダーレミは、5位入線のソベラニアの進路を妨害したとして5着に降着。2位入線のスタセリタが繰り上がり優勝となったのだ。処罰の対象となったのは、ゴール前300m付近の出来事で、正面からとらえたカメラを見ると、抜け出そうとしたダーレミが内によれて、ラチ沿いにいたソベラニアの肩先をこすり、ソベラニアがわずかに顔をそむける場面があったことが確認された。

 ただし、これが降着にするほどの妨害であったかどうかは、極めて微妙。翌日のレーシングポストは「センセーショナルな降着」と報じ、ダーレミ関係者は裁定を不服として異議申し立てを行う準備に入っている。

 陣営からはレース後「もう2度とフランスには馬を連れて来ない」との発言も聞かれたように、現在の状況では、ダーレミの凱旋門賞参戦の可能性は低いと見る関係者が多い。最前から伝えられているように、この馬がエリザベス女王杯に矛先を向けてくれたら、日本のファンにとってはうれしい限りだ。

 一方、裁決によって無敗の連勝記録が6に伸びたスタセリタだが、愛国を代表するブックメーカーのパディーパワーが、レース前には5.5倍だったオッズを9倍に変更するなど、凱旋門賞に向けた前売り市場での評価は急落することになった。

 続いて行われた、3歳馬によるG2ニエル賞。過去10年の凱旋門賞馬のうち、じつに6頭がここをひと叩きしているという最重要ステップを制したのは、単勝1.6倍の圧倒的1番人気に推されていたカヴァルリーマン(牡3、父ホーリング)だった。

 シェイク・モハメドの自家生産馬カヴァルリーマンは、春のクラシックには乗れなかったものの、7月14日のパリ大賞典を制して重賞初制覇をG1で飾り、秋の更なる飛躍を期待されていた馬である。そのカヴァルリーマンが、道中3番手から直線で抜け出すという、危なげのないレースぶりで勝利を収め、半馬身差の2着に入ったのが、デビューから2か月足らずで挑んだ仏ダービーで4着に健闘し、こちらも秋の飛躍が期待されていたベーシュタム(牡3、父パントルセレビル)だった。

 順当な結果に収まったニエル賞だったが、前売り市場の反応は予想外に鈍く、勝ち馬カヴァルリーマンに対するブックメーカー各社の評価は、わずかにオッズを下げて9倍から11倍の4〜5番人気。ベーシュタムだと15倍から26倍ついて、8〜10番人気となっている。

 続いて行われた、古馬によるG2フォワ賞。わずか4頭立てだったが、3レースの中では凱旋門賞の前哨戦として最も大きな意味合いを持つのが、このレースであったように思う。

 勝ったのは、ステークスレコードタイで制した春のサンクルー大賞に続く、2度目のG1制覇となったスパニッシュムーン(牡5、父エルプラド)。スタートから先行し、そのまま押し切っての勝利だった。昨年から今年にかけて、ゲート入りを嫌って競走除外になるという事件を3度にわたって起こし、英国では出走停止状態にある同馬。しかし、この日の枠入りは実にスムーズ。なおかつ、自らペースを作って逃げきったこの日の勝ち時計は、レースレコードに0.1秒差に迫る優秀なものだった。ブックメーカーにおける評価は15倍から21倍で9〜10番人気と高くないが、当日のロンシャンが良馬場になれば、勝つまでは至らなくとも馬券の対象になる可能性はおおいにあるように思う。

 フォワ賞で、単勝1.8倍の圧倒的1番人気に推されていたのが、昨年の仏ダービー馬で、今季も既にロンシャンのガネー賞、ロイヤルアスコットのプリンスオブウェールズSと、2つのG1を手にしていたヴィジョンデタ(牡4、父チチカステナンゴ)だった。後方から追い込んだものの、スパニッシュムーンを3/4馬身捕らえきれずに2着に終わったヴィジョンデタだが、この日の同馬は明らかに仕上がり途上。レースぶりも本番を意識したもので、前哨戦としては申し分のない内容だったと言えよう。オッズ11倍から13倍で6番人気というのが、前売り市場における現在の評価である。

 しかし、冒頭でも記したように、9月13日にステップレースを戦った馬たちでは、ヨークのインターナショナルS、レパーズタウンの愛チャンピオンSと、ここ2戦続けてスーパー・パフォーマンスを見せているシーザスターズに、歯が立たないであろうというのが衆目の一致するところだ。シーザスターズ「2倍」に対し、2番人気のフェイムアンドグローリーを「6倍」としている大手ブックメーカーのラドブロークスを筆頭に、各社1本被りの人気となっているのも頷ける。

 いつものように、シーザスターズの凱旋門賞出走は良馬場が条件となるが、出てくれば十中八九、この馬の完勝に終わると、筆者も見ている。

 凱旋門賞当日のロンシャンの馬場が、極端に悪くならないことを祈るばかりである。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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