別海競馬2日目

2009年09月30日(水) 11:55

 出走頭数がいつになく少ないことから今後の存続が危ぶまれるほどの状況にも思えた別海競馬の初日(平地)だったが、2日目(20日)のばんえいは、そんな懸念を吹き飛ばすほどの大賑わいとなり、驚かされた。

 中標津でもそうだったように、道東では、こと草競馬に関しては、圧倒的にばんえいの方が人気が高い。

 近年頭数が増えつつあるポニーから、従来の大型馬まで、この日、約100頭は集まっていたのではなかろうか。レースは全21レースが組まれ、中標津ではなかった(と思う)、ミニポニー(体高90cm以下)によるレースもある。

体高計測 体高計測

 朝、私たちが会場入りしたのはちょうどポニーの体高計測が行われているさなかのこと。それぞれ自慢の愛馬を持ち寄り、係員の手にする尺をじっと注視する。120cmが一つの基準になっており、それを超えるとハンデが課せられるのは中標津と同様である。またポニーばんばに出場できるのは体高130cmまで。

 中標津でもこの計測時の雰囲気はかなり緊迫したものだったが、ここでもやはり「固唾を呑んで見守る」感じなのだ。自分の馬を計り終えても、ライバルの数字が気になるのか、計測場所に集合した人々の数は少なくならない。

 なぜここまでのこだわりがあるのかというと、つまりレースの格付けがこの計測で決定されるからである。主催者(別海町馬事愛好同志会)によれば「体高の高い順にクラス分けしている」らしく、少しでも「低く計ってもらう」方が有利になると判断されるようなのだ。

 大型馬もまたかなり来ていた。背中に「皆川厩舎」などと書かれた揃いのオレンジ色作業上下服を着用している集団もいる。帯広からの遠征とも聞いたが、この日は日曜日。帯広ではばんえい競馬開催中のはず。はて、ここに来て良いものかどうか? と思わぬでもなかったが、人のみならず、馬もまた調整目的なのか、それとも帯広ばんえい競馬のPRのためなのか、シンザンタイガー、ハヤテショウリキといった現役馬もここで出走していた。

 中標津と比較するとここは周回コースもばんえいコースも格段に整備されており、とりわけばんえいコースのスターティングゲートは電動式である。近づいて見ると、横付けしたトラックのバッテリーから電源を取っており、レースが行われている間、ずっとエンジンをかけっぱなしにしていた。

 障害は二つあり、第二障害の方が高い。距離は(たぶん)200mである。

 ゴールした後、橇(ソリ)をスタート地点まで戻すのは、中標津と同様に大型トラクターによる牽引だったが、その昔は、トロッコに載せて運んでいたものか、コースに沿って軌道が今も残っている。

ポニー待機場所 

 前日とは打って変わって、観客が多かった。出走馬の頭数がそのまま観客数に比例しているような印象である。道東の人々にとって「競馬」と言えば、やはり「ばんえい」を指すのかも知れない。

ポニーばんば ポニーばんば

 その中でも、近年増えているというポニーばんばは、大型馬に比べると、比較的手軽に飼育できることから、愛好者が多いらしい。

 ポニーとはいえ、橇を曳くために、相当マッチョな体形に作られている。〜Dランクに分類されているのは中標津と同じだが、見ていると力量の差がかなりあるようだった。

大型馬待機場所 大型馬待機場所

 一説によれば、能力の高いポニーは、かなりの高値で売買されているともいう。力量のあるポニーを手に入れたいという“買い手”と、牽引力に勝るポニーに仕上げてそれを“売る側”がいて、そこに「市場」が形成されるのである。

 あるいは熱意とか熱気といった観点から見ると「プロの世界」顔負けかも知れない。草ばんばの中でも、ポニーはそれ自体が完全に独立した分野に育っているのだそうだ。

 別海の地元の人々に言わせると、ここはとりわけばんえい草競馬の愛好者にとっては“聖地”なのだそうである。整備されたコースや集客力、運営など全ての点で「頂点」に立っているのだ、と自負する。

 確かに、出走頭数がダントツである。道内各地から愛好者が集結してきて、それぞれ腕を競う。決して高齢者ばかりではなく、若い世代の愛好者もいるようで、まだまだばんえい競馬の人気は根強いと改めて感じた。

 平地と異なり、ばんえいは、自ら「参加できる」種目なのではあるまいか。騎乗してレースに出るのはかなりの熟練を要するが、素人目には、橇の上に乗って、手綱を操作する方が簡単に見える。

 橇の上に跪いてレースに出場することも可能なようだし、高齢者は概してへっぴり腰か棒立ちのまま馬を追っている。厳密に聞き取り調査をしたわけではないが、騎乗してレースに出場する高齢者の場合は、おそらくかなり若かりし頃から馬に乗っていた人々ばかりであろう。でなければ、とても無理である。しかし、ばんえいの場合には、必ずしもその限りではないように思えるのだが、どうだろうか。

大型馬レース 大型馬レース

大型馬レース 大型馬レース

 とはいえ、まずは、類い稀な「熱意」と「闘争心」が求められる。何が人々をこんなに突き動かすのだろうか。詳しくは知らないが、例えば、「闘犬」や「闘牛」の世界にも通ずる「勝負へのこだわり」がばんえい愛好者の間にも共通項として存在するのかも知れない。

 ひじょうに奥が深く、また実に多彩だ。エネルギッシュで熱い人々がこんなにたくさん集まってくることに率直に驚かされた。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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