2009年10月27日(火) 00:00
10月19日から21日の3日間にわたって、フランスのドーヴィルで開催された。アルカナ社主催の「ドーヴィル・オクトーバー・イヤリングセール」で、日本人によると見られる購買馬2頭が確認された。いずれもフランスで現役生活を送る予定で、私たちの前で走る可能性は少ない馬たちだが、このコラムで敢えて御紹介させていただくのは、2頭が・シャンティイに厩舎を構える小林智調教師の管理下に置かれる馬だからだ。
02年にフランスに渡り、ジョン・ハモンド、リチャード・ギブソンといったトップトレーナーの下で修業するかたわら、猛勉強を重ねて、昨年遂にフランスにおける調教師免許を取得した小林師。ミケル・デルザングル厩舎の一角を間借りしての開業となったが、成績を上げることもさることながら、まずは管理頭数を増やさないことには経営的に成り立たず、馬集めが当面の大きな課題となっていたところだった。そんな折、サポートしてくださる日本人馬主との交渉がまとまり、今回の市場では馬選びの段階から小林調教師の手に委ねられた結果、念願の若駒購買がかなったのである。
セールが終了し、既にシャンティの小林厩舎に入厩したのは、上場番号70番の牝馬と、285番の牝馬だ。
70番は、父がレイマン。ダーレー所有の繁殖牝馬ライールが、日本に送られてサンデーサイレンスを種付けされ、受胎後にアメリカにわたって出産した子である。シェイク・モハメドの所有馬としてアンドレ・ファーブル厩舎からデビューし、その後ゴドルフィンに移籍して現役生活中には、仏国ドーヴィルのカブール賞、英国サリズバリーのソヴリンSの2重賞を制した他、G1モルニ賞2着、G1ジャンルクラガルデル賞(グランクリテリウム)3着などの成績を残した。
そのレイマンが種牡馬入りし、08年に生まれた初年度産駒の1頭となるのが、本馬である。牝系は、祖母の妹にG1フォレ賞やG1モーリスドゲスト賞を制したオキュパンディストがいて、その産駒に仏1000ギニー2着馬インプレッショナントがいるから、なかなかの血統背景を持った馬と言えそうだ。
上場番号285番は、父が、凱旋門賞、キングジョージ、愛ダービー、タタソールズGCといったG1を制したハリケーンランである。その父は、ヨーロッパにセンセーションを巻き起こしたモンジューだ。これまでに出現した父モンジューの活躍馬の中でも、最も好馬体の持ち主と言われたのがハリケーンランで、こちらも今年の1歳が初年度産駒という、期待の若手種牡馬である。
そしてこの馬も、祖母コンデッサがG1ヨークシャーオークス勝ち馬と、筋の通った牝系の出身だ。かつ、コンデッサの産駒で、本馬にとっては伯父にあたるのが、京成杯やセントウルSに勝ち、スプリンターズSでも2着になっているビコーペガサスという、日本のファンにも馴染みの血統背景を持っている。
馬のタイプとしては、70番の方に早めに動いてもらい、285番でじっくりと3歳クラシックを狙うという戦略になろうか。
フランスにおける唯一の日本人調教師がせり市場で購買という話題は、地元の競馬マスコミでも取り上げられており、関係者やファンの注目も集まっている。いずれにしても、小林調教師のもと、2頭が無事にデビューの日を迎えて欲しいものである。
さて、「ドーヴィル・オクトーバー・イヤリングセール」は、3日間の開催を通じて342頭の1歳馬が売却され、総売り上げは前年を4.7%上回る877万ユーロを記録。平均価格も前年比で9.4%アップの25.637ユーロと、昨今の経済状況を鑑みれば、ちょっとびっくりするぐらいの好結果となった。
フランスのドーヴィルセールは、8月に行われた1歳馬のプレミア・マーケットも堅調だった。一般経済の基盤が他の欧州諸国に比べると強固な上に、上場馬の品揃えが良く、かつ、主催するアルカナ社が行っている積極的なマーケティングも奏功しているようだ。アルカナ主催の市場は、12月の牝馬セールも、今年のドイツオークス馬ナイトマジックや、先の凱旋門賞3着馬キャバルリーマンの母シルヴァースウォードらが上場を予定しているなど、近年にない品揃えとなっており、早くもその動向に注目が集まっている。
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合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。