いよいよ有馬記念~今年を振り返って

2009年12月23日(水) 00:02 0

 あっという間にもう有馬記念である。毎年、この季節になると、また一年過ぎたことをしみじみと思い返すのだが、生産界にとっては、一段と厳しさの増した年だったと言わざるを得ない。

 何とか少しでも明るい話題で一年を締めくくろうと思うのだが、どうにもそんな光明の見えるような要素は乏しく、沈滞ムードのまま一年が終わりつつある。サラブレッドの価格低迷がより深刻になり、市場ではコスト割れの落札馬がより目立った年であった。

岡田繁幸氏 

 確かに、多くの生産者が将来に希望の持てないまま、厳しい年の瀬を迎えているのだが、そんな中でも、現状を嘆くだけではなく、絶えず先を見据えて「生産界はどうあるべきか」と考え続けている人がいる。他ならぬ岡田繁幸氏である。

 カリスマと言われる所以は、その類い稀なバイタリティにある。12月22日夜。ビッグレッドファームの忘年会が新冠町明和の本場隣にある旧・明和小学校で開催され、その席上でも“岡田節"が炸裂した。

明和小学校 

 少子化と過疎化によって、北海道のみならず全国どこでも郡部の小中学校は軒並み児童・生徒数が激減しており、合併によって廃校に追い込まれる学校が続出している。この明和小学校もそんな中の一つだったが、ビッグレッドファームがこの施設をそっくり買い取り、牧場の福利厚生施設として「再生」された。今回、初めて中に入ったが、内部はかなり立派な造りである。正面玄関を入ると、広い吹き抜けのあるホールが広がり、右手奥には体育館もある。

ホール 

 ビッグレッドファームやコスモビューファームの従業員とパート、及びその家族だけで計170人。それに関連業者や近隣の生産者なども招待され、総計200人を超える大人数の忘年会となった。

ハーモニカ 

 岡田繁幸氏が舞台に立ったのは、まず、地元のハーモニカ愛好家たちによる演奏の際、乞われて「さらばハイセイコー」(かつて増沢末夫騎手が歌いヒットした)を披露した場面である。そこで、「コスモバルクは引退後、種牡馬になるのか?」という質問に答えて「有馬記念で8着以内に入らなければ引退させる」とスポニチから取材を受けた際に回答させられた?ことを告白し、「でも、バルクにとって現役生活を続けるのは意味のあること。アイルランドにでも連れて行ってレースに出したい気持ちもある」と語った。

 コスモバルクの有馬記念への出走の是非を巡り、メディアの世界では様々に取り沙汰されたが、岡田氏の本意はあくまで現役続行させることにあるようだ。

 岡田繁幸氏は、マイクを持つと、独自の競馬観を熱く語る人である。

 その後も、たまりかねたように舞台に上がり、沈滞ムードの漂う日高をいかに活性化するか、について滔々と持説を展開した。59歳という年齢を感じさせない熱い語り口がこの人の真骨頂であり、大きな魅力である。これだけ「語れる人」は、今の日高にはこの人を措いて他にいない。

 「馬主資格のハードルが高すぎるから、新規の馬主が増えない。なぜ、所得500万円程度にできないのか?JRAは預託料の未収金が発生する恐れがあるので、資産を持たなければ馬主にはなれないと言うが、そもそもそんな、預託料を滞納するような人の馬は調教師が預からなければいいだけのこと。新規馬主を増やして、例えば友人同士ででも気軽に中央で馬を持てるようにすると、業界はかなり活性化します。生産馬も売れるようになる。50万円、100万円でしか売れないなどということがなくなる」。

 そして「まず、セレクションセール(HBA日高軽種馬農協主催)を、セレクトセール並みのレベルに押し上げて、とにかくいい馬をここに集めてセリを行う。日高に普段来ないような馬主を呼ぶようにする。それには、日高に一流の種牡馬を導入しなければならない」と力説する。

 振り返ると、今年も社台グループにほぼ席捲された1年だったが、岡田繁幸氏もまた、社台の一人勝ち状態にある生産界を深く憂慮する人である。とりわけ日高の地盤沈下は、地域全体の経済にも暗い影を落とすだけに、現状をより重く受け止めていることが伝わってきた。

 昨今の経済状況では容易に馬券売り上げも回復しないと思われるが、競馬の将来を見据えた時、日高の生産者に何ができるか、何をすべきかを考えさせられた気がする。あくまでこの人は「前向き」である。こういうメンタリティでなければ生き残れない時代になっていることを痛感させられた。ともあれ、来年は暗闇の中に一筋の光明が見えてくるような年になって欲しいと思う。

 今年1年、拙ない当コラムをご愛読いただき、ありがとうございました。また来年も引き続きよろしくお願い申し上げます。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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