2010年02月24日(水) 12:00 0
かつて静内の二十間道路に沿った一帯は、種馬場がひしめくメッカであった。現在は軒数も減り、日本軽種馬協会(JBBA)静内種馬場とアロースタッド、レックススタッドを数えるのみだが、それでも、春の交配時期ともなれば日高の中では断然の賑わいを見せる“種牡馬銀座”である。
2月23日(火)。JBBA静内種馬場を皮切りに、正午過ぎまで、この静内地区合同の種牡馬展示会が開催された。JBBAは午前9時半スタート。このところ毎年、新種牡馬を導入し生産者に供するJBBAだが、交配前に種付け料を前納するシステムを頑なに守っていたことから、近年は配合頭数の減少に悩まされる事態に陥っていた。
そこで今年より、ほとんど画期的(民間でははるか以前より導入しているのだが)ともいうべき種付け料の「受胎確認後支払い」を選択肢の一つとして採用することに踏み切った。
すなわちA「基本契約」B「不受胎時種付け料返還特約及びフリーリターン特約付き」C「フリーリターン特約付き9月15日期限払い」という三通りである。
当然のことながら、種付け料も三段階に分れており、AよりもB、BよりもCが無論高い。
今年の新種牡馬はヨハネスブルグ。ヘネシー産駒のアメリカ産馬で2歳時に英愛仏米を転戦して7戦全勝の成績を挙げた早熟タイプだ。2001年度の欧州と米国における2歳チャンピオンである。すでに申し込みは昨秋のうちに締め切られており、配合する繁殖牝馬も決定している。
このヨハネスブルグと種付け料納入に関する新システム導入によって、何とか配合頭数減に歯止めをかけたいところ。午前9時を回ったあたりから、続々と生産者が集まり、最終的には約400人にもなっただろうか。
種牡馬展示に決まった方式があるわけではなく、順番も展示時間も各種馬場によってまちまちである。JBBAの場合は、静内と胆振の両種馬場にて繋養されている14頭が次々にお披露目されたが、お目当てのヨハネスブルグは最後の最後になってからようやく登場した。
最初に見せてしまうとみんな帰ってしまうから、という理由だろうが、そのために、次のアロースタッドへの移動にひどく手間取る結果になった。あらかじめ「時間差」を設けて展示時間をずらしているにも拘わらず、私もやや遅れてアロースタッドに到着した時にはすでに新種牡馬(アジュディミツオー)の展示が終わってしまったところであった。
JBBAに集まった大半の生産者がそのままアロースタッドに移動してきたのではなかろうか。
ここで今年、最も注目を集めた(と思われる)種牡馬は、ラブミーチャンを生んだサウスヴィグラスである。
すでに1月末の時点で「満口」という人気ぶりで、地方競馬であっても有力馬の輩出により、産駒成績いかんでは配合頭数が大幅に増える実例と言えよう。
各種馬場とも、今や配合牝馬の獲得に躍起である。それにはまず、展示会に足を運んでもらうことから始まる、とばかりに、ここアロースタッドでも生産者を対象にネーム入り皮頭絡などが当たる抽選会を行ったりしていた。割引券発行(ビッグレッドファーム)やGIまたはJpnI競走に繋養種牡馬の産駒が優勝すると任意の種牡馬を無償で1頭配合するボーナス制度(JBBA)など、サービス合戦も激化している印象だ。
ところで順番が最後になってしまい、昨年は大雪にたたられて散々の展示会だったレックススタッドだが、今年は一気に7頭もの新種牡馬を導入してシーズンに突入する。
スクリーンヒーロー、スリーロールス、エイシンデピュティ、マツリダゴッホといった競馬ファンにもお馴染みのGIホースが顔を揃えて、豪華な展示会となった。
武宏平師、鹿戸雄一師、国枝栄師など、これらの種牡馬の現役時代の管理調教師だった面々が、代わる代わるマイクを握り、営業トークを展開する一幕もあった。
レックススタッドは、これらの新種牡馬が加わり、現在26頭もの大所帯となっている。いつの間にか日高では最大規模に膨らんでいることに驚いてしまった。
先週15日(月)より始まった生産地の種牡馬展示会は、これで一応終了した。日程が合わずに今年も(昨年もだが)日高町のブリーダーズスタリオンと新冠の優駿スタリオンに行けなかったのが悔やまれる。
今年は6日間で計9箇所の種馬場にて展示会が開催されたが、社台への一極集中により、相対的に日高で繋養されている種牡馬たちにとっては「受難の時代」となっている。何とか巻き返しを図りたいところだ。
田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。