2010年04月29日(木) 10:30
ここで突然、こんなことを。昭和33年の第3回有馬記念、その現場に私はいた。レースに勝って地下馬道に戻ってきたその馬体は、全身、湯気を立てて目の前を通り過ぎていった。鞍を下ろした引き締まった体、これがサラブレッドなのだ、始めてこの時認識した。
この世界に入る3年前、アルバイトで中山競馬場に行った時のこと、仕事は地下馬道にいて侵入者がないよう監視することだった。
勝ち馬オンワードゼアこそ、競馬を身近に感じた最初の馬なのだが、この受けたインパクトは今になっても残っている。
当時のアルバイト料は、1日450円で売り上げが1億円になると100円の大入りが出ていた。その年の1日平均の売り上げが9000万円弱、翌年から1億を超えるようになっていったのだが、今は昔の話だ。
ただここで思うのだが、何事にもそもそもがある。自分にとっての競馬のそもそもがこの時だったということ。誰にでもある初めての経験がいつであったか、そして、その時の印象がどうであったか。
少なくとも、世の中についてよく知らない若者にとって、競馬場とサラブレッドは魅力的だったのだ。しかも、そこで顔の合った大学の社会学の教授、この先生にはこういう世界があったのだという驚き、確かにこの心に新たな心境が生まれていた。
それから3年後、同じ中山の実況放送席にいたのだが、そういうことよりも、若い時の出会い、経験が、どんなに貴重かということを言いたいのだ。もしかしたら、それがきっかけになるかもしれないという出会い。なるべく多くのきっかけとなる出会いを、若者には経験してほしいし、アルバイトも、そのひとつになり得る。競馬場に多くの若者が来てほしいという願い、多くの若者に競馬を知ってもらいたいと願うとき、きっかけをどう作っていくか、そして、それをそもそもに結びつけられるか。見ることの意味は深い。
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長岡一也
ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。