錚々たる顔ぶれの日本代表

2010年05月11日(火) 23:59

 5月2日に京都で行なわれた春の天皇賞で、けれんみのないレース振りを見せて2着に入ったマイネルキッツ(牡7)の陣営から、レース後、11月2日にオーストラリアのフレミントン競馬場で行なわれるメルボルンCへの参戦表明が出された。

 春の天皇賞が3200mであるのに対し、秋の天皇賞は距離が2000mで、日本の競馬カレンダーには秋に古馬が走れる長距離のGIがない。惜しくも連覇は逸したものの、09年の春の天皇賞を完勝しているマイネルキッツが、3000mを越える距離に極めて高い適性を持っていることは疑いようもなく、そういう馬が秋の目標をメルボルンCに置くというのは、極めて理にかなった戦略といえよう。未解決の検疫協定が1日も早く決着し、遠征が実現することを心から願いたいと思う。

 春の天皇賞が行なわれた3日後の5月5日。今秋の凱旋門賞(10月3日、ロンシャン競馬場)へ向けた第1回目の出馬登録が締め切られ、こちらの方はなんと7頭もの日本馬が登録を済ませたことが明らかになった。

 近年稀れに見るハイレベルと言われる3歳牡馬勢から、新聞紙上で大々的に報じられた皐月賞馬ヴィクトワールピサを筆頭に、青葉賞を含めて4戦4勝のペルーサ、3か月ぶりだった皐月賞でも3着に好走した京成杯勝ち馬エイシンフラッシュの3頭。凱旋門賞日本馬最先着のエルコンドルパサーを手掛けた二ノ宮敬宇厩舎からの2頭(アクシオンとナカヤマフェスタ)に、チーム・ディープインパクトが4年前の雪辱を期すフォゲッタブルと、古馬の牡馬が3頭。そして、その末脚がワールドクラスであることを春のドバイで実証済みのレッドディザイアを加えた7頭というのが、その陣容だ。ドバイシーマクラシック2着馬で、世界中のファンがシーマクラシックの勝ち馬ダーレミとのリマッチ(再戦)を期待するブエナビスタの名前こそないが、それでも、錚々たる顔ぶれの日本代表と言えよう。

 今年の3歳世代は牝馬もレベルが高いと見られているから、5月23日に行なわれるオークスの結果次第では、ヴェルメイユ賞やオペラ賞といった秋の欧州を舞台に行なわれる牝馬限定GIに名乗りを上げる馬も出てくるかもしれない。

 それより何より、目の前に迫ったGIシンガポール・インターナショナルCにも、日本勢は2頭出しで臨む。

 ゴルフの宮里藍選手しかり。フィギュアスケートの高橋大輔選手や浅田真央選手しかり。プロ・アマを問わず、世界のトップに君臨するプレイヤーが出現してこそ、その種目が盛り上がるのがスポーツだ。競馬でも世界の頂点に立ち、新聞の一面を飾る日本馬が出現して欲しいものである。

 ただし、海外制覇を目指す日本勢の戦略を俯瞰的に見た時、少しだけ寂しいのは、日本も参画している「グローバル・スプリント・チャレンジ(GSC)」の欧州ラウンドや、凱旋門賞と並ぶ欧州12F路線の双璧「キングジョージ」を目指そうという日本馬が、出てきていない点である。

 なぜ寂しいと思うかと言えば、情勢を分析すると、現在のところ比較的手薄で、そこが勝ちやすい条件が揃っている路線であるからに他ならない。

 例えば、水準が高くなく層も厚くないという状態が、ここ数年来続いているのが、欧州の短距離路線である。ロイヤルアスコットのGIキングズスタンドS(6月15日)やGIゴールデンジュビリーS(6月19日)へ向けて、ドバイのGIゴールデンシャヒーンを制した北米調教馬キンセイルキング、同じくドバイのG3アルクオーツススプリントを制した香港調教馬ジョイアンドファン、更には、今週のクリスフライヤー・スプリントの結果次第だが、ゴールデンシャヒーンで2着となったシンガポール調教馬ロケットマンらが、行く気満々で登録を済ませている。

 かつてアグネスワールドが、英国のジュライC、仏国のアベイ・ド・ロンシャン賞と、この路線のGIを2つ獲得したように、日本馬が欧州のこの路線で充分に戦える力量にあることは証明済みだ。10月第1週のスプリンターズSまで、日本にはこの路線のGIがないだけに、高松宮記念の上位馬をはじめとした日本のトップスプリンターたちにとって、GSCの欧州ラウンドは格好の標的になるはずなのだが……。

 アスコットのGIキングジョージ(7月24日)を目指そうという馬が、春の天皇賞馬ジャガーメイルの陣営から、わずかに仄めかす発言があった以外は、出てきていないのも、同じ路線の凱旋門賞を視野に入れている馬が多数いることを考えると、奇妙にすら見える現象である。

 凱旋門賞を勝つことが大変な名誉であることは言うまでもないが、一方で、凱旋門賞ほど勝つのが難しいレースは無いというのが、欧州で定着しているセオリーだ。毎年多頭数になる上に、コース設定がトリッキーで、コース経験の乏しい人馬には克服困難なレースであることは、既に日本でも周知の事実となっているが、ひとたび雨が降れば勝ち時計が2分30秒台の後半になることも覚悟しなければならないというのは、日本馬にとってむしろ、標的にしづらい条件と言えよう。

 一方、06年にハーツクライが参戦し、あわや勝つかという競馬で3着に好走したキングジョージは、凱旋門賞に比べると頭数が少なく、開催時期の気候も安定していて、そういう意味では紛れの少ないレースである。

 昨年の世界チャンピオン・シーザスターズが引退し、この路線における古馬の主要勢力は、ドバイでブエナビスタの後塵を拝した馬たちだ。今年の欧州3歳世代には、2歳時無敗のセントニコラスアベイというスーパースター候補がいたのだが、同馬は今季初戦の2000ギニーで6着に大敗し、いささか看板が色褪せつつある。セントニコラスアベイが仮にダービーで復活して強い競馬を見せたとしても、近年3歳世代のトップはキングジョージをスキップして秋に備える傾向にあり、使って来ない公算が強い。すなわち、今年もキングジョージは、与しやすい顔合わせになる気配が濃厚なのだ。

 登録が締め切られる6月8日(火曜日)までに、キングジョージ参戦を表明する陣営が出てくることを期待したいと思う。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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