多くはみな虚言

2010年05月19日(水) 23:59

 そうとは考えてもいなかったのに、言い出しても無駄と思いそのまま聞いてしまったということ、たまにある。そして、ついにはその場にいたということで、証人のようにされて、いよいよ本当のこととして定まってしまう。どっちを見ても、とにかく嘘の多い世の中と言ってしまえばそれまでだが、ただただ普通の、珍しくもない話ではないか。

 そのような折、そうではないと言っても仕方ない。大体は、そうだと本当のように扱っておいて、信じることはせず、また、疑ったり誹ったりもせず、大体はそのままにしておくのがいいのである。

 今回も「徒然草」だが、「多くはみな虚言(そらごと)」という段に、そのようなことが書かれている。

 オークスだ、ダービーだとなると、ひと言でもふた言でも口を出したくなるもの。だからこそ競馬のお祭りなのだが、気分が高揚するほどに、大げさに人はものを言おうとするもの。その中で、声が大きく我を張るものがいて、大勢を支配してしまうのだ。

 そうとは思っていないのに、凄まじい剣幕に圧倒され、どうでもいいやと聞いてやるのだが、たまにその通りになってしまうことがある。さあ大変、時が過ぎるうちに言いたい放題に話は作られていき、やがて、それがそのまま定着してしまうのだ。そんなことは滅多にないが、あったときの被害は甚大、間違いなくその人間を嫌いになる。

 しかし、そこは世の中うまくできていて、言いたい放題がそのまま通ることは少ない。

 競馬に手を染めていれば、その辺りのところは重々承知しているから、キャリアを積むほどに、勝負に関わる言葉は少なくなっていくはず。多くはみな虚言を、競馬ほどはっきり見せるものはない。なのに、オークス、ダービーのシーズンは別なのだ。どこからともなく、大きな声が聞こえてくる。そら、また言ってるぞ、惑わされるなよ。

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長岡一也

ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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