2010年06月02日(水) 00:00
新茶に心ひかれる季節になった。若葉の雫を啜るという感じ、晴々しい匂いもいい。そして、色がまたいい。白磁の茶碗に半ほど注ぐその奥床しいのもいい。
新茶をゆっくり楽しむことで、どこか余裕を感じるのもありがたい。何もかもをし尽くした人間でも、そう思うのだから、新茶の効用は絶大だ。なくてはならないもの、それが新茶というものである。
この新茶のシーズンに登場する新馬戦、これまた、大いに心を浮き立たせてくれる。ダービーが終われば、来年のダービーを大目標とする新たな戦いが始まる。競馬のサイクルは、ダービーからダービーへと周回していく。この時の流れに、どれほど身をまかせてきたかと数えてみたら、何とこの春で50年に入ろうとしているではないか。半世紀、こんなにも長きにわたり競馬放送に携わってきたとは、なんたることか。時代遅れにならないようにと、少しは意識するようにしてはいるが、そんなに努力し続けてきたという思いはないのだ。
そしてダービー、これに関して言えば、どのレースよりも愛着があり、ずっと特別な思いを抱いてきた。今年でどうにか40回しゃべることができた。ラジオで16年、テレビの収録用で24年、毎年新たな思いで双眼鏡をのぞいてきたが、いつもこの時が1年の区切りという気持ちは変わらないでいる。やはり、気分は実況アナウンサーなのだ。
登場する新馬たちを目の前に、はるか遠い彼方のダービーに思いをつないでいくのだが、デビュー戦には晴々しい匂いが漂っている。そして、新茶に心ひかれると同様、初々しい戦いぶりに季節の到来を感じるのだ。
競馬になくてはならない新馬戦、勝つ意味の大きい戦いなのに、どこかのどかなのはどういうことか。この先、まだずっとあるという余裕からなのか。41回目のダービー実況で馬名を呼ぶ18頭は、確かに目の前にいる。
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長岡一也
ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。