今が旬!!南アフリカ共和国の競馬事情

2010年06月12日(土) 00:00

 いよいよサッカーワールドカップ・南アフリカ大会が始まりました。日本はベスト4入りを目標に掲げていますが、イギリスの大手ブックメーカー・ウイリアムヒル社が提示する「To Reach Semi Final」という賭け (競馬でいえば複勝?)の日本のオッズはスロベニアと同じで34倍(開幕直前の倍率)。上位人気のスペイン、ブラジル、イングランド、アルゼンチンは2倍前後ですから、かなりの高倍率です。日本より倍率が高いのはアルジェリア、ホンジュラス、ニュージーランド、北朝鮮だけ。つまり日本は、ベスト4入りを対象にした賭けでも32カ国中27〜28番人気という、“超穴国”と評価されているわけです。

 ちなみに、日本のWin(単勝=優勝)オッズは、あまり言いたくないんですが401倍。本命スペイン(5倍)の80倍もついちゃいます。これほどの倍率の日本の馬券、じゃなくて“国券”、あなたは買いますか?(注=日本国内からインターネットでこれを買うのは法律違反です)。

 さてさて、今回のワールドカップの開催国・南アフリカは、アフリカ大陸随一(唯一ではありません)の競馬大国です。現在、国内には下記の11の競馬場があり、一年を通してほぼ毎日、どこかの競馬場でレースが行われています。

 Arlington(ポートエリザベス)
 Clairwood(ダーバン)
 Durbanville(ケープタウン近郊)
 Fairview(ポートエリザベス近郊)
 Greyville(ダーバン)
 Kenilworth(ケープタウン)
 Flamingo Park(キンバリー)
 Randjesfontein(プレトリア近郊)
 Scottsville(ピーターマリツバーグ)
 Turffontein(ヨハネスブルグ)
 Vaal(ヨハネスブルグ近郊)

 これに加え、同国の競馬を統括する南アフリカジョッキークラブ(正式名称はThe National Horseracing Authority of Southern Africa)は、隣国ジンバブエの競馬(首都ハラレのBorrowdale競馬場)も傘下に収めていています。

 私は、97年12月に南アフリカの競馬を見に行きました。生のレースを観戦したのは、Clairwood、Turffontein、Kenilworthの3カ所。どの競馬場も直線1200mのレースができるようになっていて、周回コースの直線部分も長く、スタンドから見る競馬場の風景は雄大でした。

 当時も「治安に問題あり」と言われていた国ですが、競馬場の中は至って安全。競馬場への往復は、競馬国際交流協会を通じてジョッキークラブに取材を申し入れたところ、各競馬場の担当者が専用車で送り迎えをしてくれましたので、競馬観戦の際に怖い思いをするようなことはなかったですね。

 ただ、ヨハネスブルグ(泊まったのは郊外のサントンという町。ヨハネスブルグ中心街に比べると断然治安がいい、とのこと)で、ガイドブックに載っていたレストランに夕食を食べに行こうとタクシーで向かったら、そこにあるはずの場所に店がなく、暗い夜道で立ち往生してしまったことがあります。こんなところでは誰かに襲われてもおかしくないと背筋が寒くなったのですが、幸い車内に装備されていた携帯電話(その当時ですから、箱形の無線機のようなもの)で店の移転先がわかり、事なきを得ました。タクシーに乗っているとはいえ、ヨハネスブルグで、夜に1人、右も左もわからない状況に陥るというのは、かなり心臓に悪いですよ。

 ところで、当時は、上記11場のほかにもいくつかの競馬場がありました。レースを観戦する予定だったVaal競馬場の開催が明け方の大雨で中止となり、送迎をしてくれるはずだったジョッキークラブの広報担当者は、非開催日のNewmarketとGosforth Parkという競馬場に連れて行ってくれました。Newmarketでは、始まったばかりのナイター競馬の施設を見学、Gosforth Parkでは南アフリカ最古の競走成績書を見せてもらったのですが、その後、入場者数の減少でGosforth Parkは廃止(跡地はカーレースのサーキットに改修)。Newmarketも2007年以降、競馬は開催されていません。

 実は、現地でお会いしたジョッキークラブの会長は、南アフリカ競馬の改革のために一般企業からヘッドハンティングされた方。競馬場の統廃合は、その頃から始まった競馬運営の近代化・スリム化に伴って断行されたようです。そうそう、Turffontein競馬場では、人種差別制度撤廃によって誕生したジョッキークラブ初の黒人会員という方にもお目にかかりました。

 日本からは遠く離れた国ですが、かつて日本の競馬でも活躍、95年にはランド(=Lando)でジャパンCも制したマイケル・ロバーツ騎手は南アフリカ生まれ(ランド=Randは同国の通貨。ランドにロバーツ騎手というのは“サイン”だった?)。縁がないわけではありません。

 とはいうものの、アフリカにはアフリカ馬疫という馬の風土病があり、南アフリカでもたびたび発生しています。そのため、同国の競走馬や種牡馬、繁殖牝馬の移動は制限され、競馬は世界からほとんど隔絶された状況に置かれていました。馬に関しては、今でも同国と日本との間を直接行き来させることはできないはず。そういう事情が、距離以上に、南アフリカの競馬を遠い存在にしているようです。

 しかし、ワクチンの開発・実用化で防疫体制も強化され、多くの国が南アフリカ調教馬にも門戸を開き始めています。97年にはロンドンニュースが香港のクイーンエリザベスII世Cに優勝、03年にはジンバブエ産馬のイピトンビがドバイデューティーフリーを制するなど、国外でビッグタイトルを獲得する馬も目立つようになってきました。近年、ドバイの競馬でめざましい成績を収めているマイク・ドゥコック調教師も南アフリカの人です。

 南アフリカのビッグレースと言えば、7月にGreyville競馬場で行われる「Durban July」と、1月にKenilworth競馬場で開催される「J&B Met」。日本とは季節が逆なので、前者が冬、後者が夏の最高峰レースです。これを勝つような馬は、世界でも通用する実力馬と言えるでしょう。

 もし、南アフリカの競馬を見に行くのなら、ホテルや移動手段の選択を含め、どうか安全を第一に、万全の準備と対策を怠りなく。競馬場への往復に関しては、ホテルのコンシェルジュにコーディネートしてもらうのが一番だと思います。

 私が行った都市の中では、ケープタウンがよかったですね。ランドマークにもなっているテーブルマウンテンや、近郊のステレンボッシュという町のワイナリー、アフリカ大陸南端の喜望峰などを巡る一日がかりのバスツアーはオススメ。ホテルで教えてくれた「MAMA AFRICA」というレストランもグッドでした。この店、インターネットで検索したら、今も営業しています(BS日テレの人気番組「トラベリックス」でも紹介されました)。南アフリカ名物の、スプリングボック、クドゥ、ウォーソグといった野生動物の料理が堪能できますよ。

 今回のワールドカップ。私は、十数年前の記憶を呼び覚まし、現地の様子に思いを馳せながら観戦しようと思います。日本の試合?勝ってほしいのはもちろんなのですが、負けたときのショックが大きくならないよう、冷静に観戦させていただきます。なにしろ、“単勝401倍”の国ですからね。では、また来週!

◎The National Horseracing Authority of Southern Africa=http://www.horseracingauthority.co.za/

◎TAB Online=http://news.tabonline.co.za/Home/tabid/37/Default.aspx

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矢野吉彦

テレビ東京「ウイニング競馬」の実況を担当するフリーアナウンサー。中央だけでなく、地方、ばんえい、さらに海外にも精通する競馬通。著書には「矢野吉彦の世界競馬案内」など。

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