スポーツには無限の可能性がある

2010年06月26日(土) 00:00

 サッカーワールドカップ南アフリカ大会、日本代表がめでたく1次リーグを突破、決勝トーナメントに進出しました。国外大会では史上初。大会直前にイギリスのブックメーカーがつけた優勝=単勝オッズ401倍、グループE最下位=“逆単勝”オッズ2倍(4カ国中1番人気)という低評価をくつがえす快挙です!岡田監督が目標に掲げたベスト4まではあと2つ。ここからは勝たなければダメなので、試合後の岡田サンも言っていたようにまだまだ遠い先の話に思えますが、さぁ、どうなりますか。

 初の快挙といえば、ゴルフの宮里藍選手も、先週、アメリカ本土のツアーで初優勝を果たし、世界ランキングのトップに立ちました。このところ、われわれにとってはうれしいニュースが相次いでいます。

 一方、テニスのウインブルドン(全英)選手権では、とんでもない世界新記録が生まれました。男子シングルス1回戦、ジョン・イスナー対ニコラ・マユの試合が、3日がかり11時間5分の大熱戦となり、138ゲーム目でようやくイスナーが勝利を手にした、というものです。5セットマッチのファイナルセットはタイブレーク方式ではなく、6ゲーム以上を取った上で相手に2ゲーム差をつけたほうが勝ち、というルールだったために、こういう記録が打ち立てられました。

 この試合では、両者あわせて215本ものサービスエースがあったとのこと。その分だけラリーで体力を消耗することはなかったとも推察できますが、それにしてもここまでの大激闘を繰り広げた両選手の肉体的、精神的スタミナには敬服するばかりです。

 ところで、この試合を最初から最後まで見届けたファンはどのくらいいたでしょう。1回戦でしたし、両者ともにそれほど注目されていた選手でもなく、センターコートの試合でもありませんでしたから、その数は少なかったはずです。選手はもちろん、試合開始の時に観客席にいたファンも、まさかこんな展開になるとは思っていなかったに違いありません。でも、最後まで見届けた人は、歴史的出来事の貴重な目撃者になったわけです。なんともうらやましいじゃありませんか。

 実は、私がどうしてスポーツアナウンサーという職業を選んだのか、と言えば、こういう試合や場面に立ち会いたかった(それを自分の実況でみなさんに伝えたかった)から、なんです。時々出かける地方や海外の競馬場巡りや、メジャーリーグの観戦旅行も同じ。いつも、なにかメッタに見られないスゴイもの、とんでもないことに出会えないかなぁ、と期待しながら出かけていきます。

 とはいうものの、なかなかそういう試合や場面に遭遇できるものではありません。ワールドカップの決勝戦とか、イチロー選手が大記録に王手をかけた試合とかだったら、歴史的なシーンを狙って見に行くこともできるでしょう。しかし、私が期待しているのは、それとはちょっと違うんです。今回のウインブルドンでの出来事を目撃した人のように、なんでもなさそうな試合を見に行ったら、たまたまタイヘンなものを見てしまった、ということになるのが理想的。それだったら、どんなマイナーなスポーツでも、どんな平凡な組み合わせでもありえる話だからです。

 競馬で言えば、たまたま見に行った地方の競馬場で、オグリキャップのデビュー戦を見てしまう、というようなこと。先週の阪神では、あのディープインパクトの初年度産駒が初めて実戦に登場しましたが、それをわざわざ見に行くのとは違います。ただ、その“オグリキャップ級”の馬がよほどの印象を残してくれないと、あとになって「あの馬のデビュー戦はどうだった?」と聞かれても、「あまりよく覚えていないんだけど」ってことになっちゃいますが・・・。

 私が今までにたまたま遭遇した、そういう歴史的な試合や場面は?ウーン、いろいろ思い返してみても、やはりそこまでのものにはいまだに出会えていないですね。プロ野球の完全試合とかノーヒットノーラン、代打満塁逆転サヨナラホームランも、まだナマで見たことがありません。

 強いて挙げれば、あの長嶋サンが1試合で3本のホームランを打ったのを見たくらいですか。もちろん子供の頃の話。後楽園球場の試合でした。この仕事に就いてから資料を調べてわかったことですが、長嶋サンの1試合3ホームランというのは17年のキャリアの中で2度しかなかったそうで、そのうちの1度を目撃したのは貴重な経験と言えるでしょう。長嶋サンが3本目を打った後、サードの守備についたとき、場内の大歓声に応えて帽子を取り、スタンドに向かって深々と一礼した姿は、それから40年近くたった今でも覚えています。カッコよかったですね(あの当時は大の巨人ファン、長嶋ファンでしたから、もうサイコーでした)。

 競馬でこの先、見てみたいものというと、3頭以上が1着同着となるレースですか。先日のオークス、史上初めてGIでの2頭1着というのは目撃しました。だから次は、GIでなくてもいいので、3頭以上の1着同着を見てみたいと思っているわけです。これも、狙って見に行けるものではないでしょう?

 競馬に限らず、スポーツには、なにかとんでもないことが起きる可能性が常にあるはずです。だからおもしろいし、また見に行きたくなるんだと思います。期待はずれの凡戦や、気の抜けた凡プレーを見てしまうとガッカリさせられますが、それはそれで、とんでもないことに遭遇するための1つのステップだと割り切って、次の試合や局面に期待しましょう。

 さぁ、今週は、今年の競馬前半戦の締めくくり、宝塚記念です。ひょっとしたらこのレースでスゴイことが起きるかもしれませんよ(なんちゃって!)。では、また来週!

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矢野吉彦

テレビ東京「ウイニング競馬」の実況を担当するフリーアナウンサー。中央だけでなく、地方、ばんえい、さらに海外にも精通する競馬通。著書には「矢野吉彦の世界競馬案内」など。

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