セレクトセール2010

2010年07月14日(水) 00:00

 すでに各種報道でおおよその結果はご存知のことと思うが、7月12日と13日の2日間にわたり、苫小牧市のノーザンホースパークで開催された「セレクトセール2010」は、不況や競馬を取り巻く環境の悪化を考慮すれば十分と言えるほどの結果に終わった。

 2日間を振り返ってみたい。

【初日・1歳市場】
 天気予報通り、朝から降雨に見舞われるあいにくの空模様でスタートした。上場馬の比較展示はなく、前日入厩しているそれぞれの馬房に購買者が訪れ、そこで実馬を見せてもらう方法である。

 もっとも、結果的にはこれで正解だったかも知れない。それほどの雨であった。比較展示などしたところでおそらくまともに馬を見て歩くことはできなかっただろう。人馬ともに最悪のコンディションの中、予定通り午前10時よりせりが開始された。

 売れてはいるが価格が伸び悩んでいる印象が強かった。母系の血統や種牡馬などからだいたいの落札価格を判断するのだが、時々、おやおやと驚くような安い価格で落札される馬がいた。もちろん日高の市場の相場からすればそれでも十分高額だとはいえ、この市場だけは特別な存在だという先入観が働いてしまう。従来の相場と比較すると、半額程度にしかなっていないような馬も結構いた。

 今年は1歳と当歳が1日ずつの日程となったことから、上場頭数も従来よりそれぞれ200頭超に膨れ上がった。午前10時より始まったせりはノンストップで続けられたものの、リザーブ形式によりせり上げられるために全ての上場馬が終わったのは午後6時50分。長い一日であった。

 初日は214頭が上場され173頭が落札。売却率80.8%は昨年よりも2.6%高い。売り上げ総額は31億5710万円(税抜き)。ただし平均価格は1825万円と昨年より400万円近く下落した。最高価格馬は50番「アイルドフランスの2009」(父ディープインパクト、牡鹿毛)で6600万円(税抜き)。

 ノーザンファーム生産、金子真人ホールディングス(株)が落札した。

(写真・アイルドフランスの2009)

【2日目・当歳市場】

 初日の大雨が嘘のように、朝から青空の広がる絶好のせり日和となった。午前8時半より、200組以上の親子ペアが展示会場に並べられ、比較展示が始まった。

(写真・当歳比較展示風景?)

(写真・当歳比較展示風景?)

 毎年感じることだが、木々の生い茂る空間に立つ馬は絵画のように美しい。しかも、今年は馬の入れ替えなしで全馬が一堂に会した。壮観という他ない光景であった。

 どちらかが大雨になる天候が避けられなかったとするならば、やはり1歳市場でむしろ良かったかも知れない。展示は9時45分まで行われ、せり開始は1歳と同じく10時である。

 朝は爽やかな風の吹き抜ける北海道らしい気候に感じたものの、その後気温はぐんぐん上昇し、午後には汗ばむくらいの陽気となった。

 当歳市場では、前日に出なかった1億円馬が2頭登場した。最高価格馬となったのは355番「アコースティクスの2010」(父ネオユニヴァース、牡鹿毛)で、1億1200万円。周知の通りダービー馬ロジユニヴァースの全弟で、活発な競り合いの末に、島川隆哉氏が落札。生産はノーザンファーム。落札の瞬間には場内から拍手も起こった。

(写真・アコースティクスの2010の落札瞬間)

(写真・アコースティクスの2010の立ち写真)

 もう1頭の1億円馬は377番「フェスタルドンナの2010」(父ゼンノロブロイ、牡鹿毛)の1億500万円。こちらは社台ファームの生産で、落札はグローブエクワインマネージメント(有)が落札した。

(写真・フェスタルドンナの2010の落札瞬間)

(写真・フェスタルドンナの2010の立ち写真)

 晴天となったこの日は、落札した当歳馬とともに記念写真を撮る馬主の姿も多く見られた。世の流れが当歳市場から1歳市場に移行しつつあるとはいえ、依然として一定数の根強い需要がとりわけセレクトセールにはあるのだろう。

 ほぼ終日、カメラマンの集まる外のテントにいたが、落札価格と立ち写真を撮るカメラマンの数とは完全に比例するのがこの市場の大きな特徴である。

(写真・撮影する報道陣)

 通常の価格(3000万円以下)ならばほんの数人でも、5000万円を超えたあたりからカメラマンが増え始め、1億円ともなると、いったいどこにいたのかというくらいの数が撮影現場に集合した。ただし、数年前のような大混乱はほとんど見られなかった。

 もう一点、撮影現場で感じたこと。

 当歳に関しては、社台グループの上場馬と非社台の上場馬とでは明らかに馴致が違う、ということだ。社台グループ当歳はよほど立たされ慣れているのか、群集の中でも人間の指示に従い、ほとんど梃子摺らせることなくポーズを取るのであった。

 その反面、非社台の上場馬はなかなか大変で、引き手が落ち着かせるのに苦労する場面が多々見られた。

 落札結果も、対称的であった。208頭の上場馬のうち落札されたのは141頭。主取りは67頭だが、その大半が非社台の牧場からの上場馬である。

 2日間を振り返って吉田照哉氏は「経済情勢の良くない中でこの結果は十分に評価できるもの。日本には当歳市場の人気が根強くあり、売却率、平均価格ともに及第点を与えられる」とコメントした。

(写真・報道陣に囲まれる吉田照哉氏)

 なお、13年に及ぶセレクトセール史上でたぶん初めてだと思うが、トップバイヤーの一人である近藤利一氏(日本馬主連合会副会長)が報道陣を前に会見を行い「毎年来ているが、今年はこれまでで一番淋しい市場に感じた。生産者はもっと良質馬を上場させ、購買者に買ってもらう努力をしなければならない。今回は活気に乏しい市場であった。私は来週のセレクション(静内)も行くつもりでいるが、日高はどんな市場になるものか」と語った。

(写真・近藤利一氏)

 両者のコメントがこれほど大きな温度差となった点が気になるところ。と同時に、来週のセレクションが近藤氏の目にどのように映るのかもまた興味がある。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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