2010年07月20日(火) 23:00 0
今週の土曜日(7月24日)、英国のアスコット競馬場で、欧州12F路線の前半戦の総決算となるG1キングジョージが行なわれる。
19日に締め切られた「5日前登録」の段階で、8頭がエントリーを済ませたが、このうち3頭は3歳馬だ。06年から08年まで3年続けて古馬のみで争われるなど、近年は3歳馬が敬遠する傾向のあったキングジョージだが、今年は久しぶりに、世代間を超えた頂上決戦が展開されることになった。
各社ブックメーカーが、1.8倍から2倍というショートオッズを掲げて1番人気に推しているのが、その3歳世代の代表格となるワークフォース(牡3、父キングズベスト)だ。御存知、今年の英国ダービー馬である。それも、2着以下につけた着差が7馬身、勝ちタイムはエプソム12F10Yコースのトラックレコードという秀逸な勝ち方を見せた馬だ。
あの超絶パフォーマンスを再現出来れば、古馬をも圧倒するというのがブックメーカーの評価だが、私個人の見解を言わせていただければ、まだキャリア3戦の馬が、ここまで被った1番人気の座に祭り上げられるのは、いささか荷が重い気もする。このレースがワークフォースにとっての試金石となるはずで、ここで強い競馬をするようなら、スーパーホースへの道を歩むことになるのだろう。
3倍から3.5倍の2番人気につけているのが、古馬勢を代表するハービンジャー(牡4、父ダンシリ)である。未だG1の勝ち鞍はないものの、今季になって日の出の勢いで台頭してきた「上がり馬」である。
ワークフォースと同じマイケル・スタウトの管理馬で、スタウト師が早くからその素質に惚れ込み、ダービー候補と期待した馬だったが、仕上がりが遅れて2歳時はデビュー出来ず。3歳の4月半ばにようやく初戦を迎えたものの2着に敗れて、春のクラシックは諦めることになった。メイドン勝ち後、グロリアス・グッドウッドのG3ゴードンS(12F)に挑んでいきなり重賞制覇を果たし、さすが名伯楽が見込んだ馬というところを見せたが、次走、セントジャーのプレップレースであるG2グレートヴォルティジュールS(12F)で7頭立ての7着と大敗してセントレジャーも断念し、結局クラシックとは無縁のまま3シーズンを終えることになった。
そのハービンジャーが、ようやく期待通りのパフォーマンスを見せ始めたのが今季だ。初戦となったニューバリーのG3ジョンポーターS(12F5Y)、続くチェスターのG3オーモンドS(13F89Y)、そして前走ロイヤルアスコットのG2ハードウィックS(12F)と3連勝。機は熟したとばかり、G1初参戦を迎えたのである。
ワークフォースがダービーの時のように早めに先頭に立ち、後続を引き離そうとするところへ、強烈な末脚を武器とするハービンジャーが猛然を追いこんで来て、ゴール前は馬体を接してのせめぎ合いというのが、一番ありえそうな決着と見ている。
各社6.5倍から8倍のオッズで3番人気に推しているのが、ケイプブランコ(牡3、父ガリレオ)だ。2歳6月のデビューから、今季初戦となったヨークのG2ダンテS(10F88Y)まで、3重賞を含めて4連勝。そのダンテSで2着に退けたのがワークフォースで、3.1/4馬身という決定的な差をつける快勝であった。
前走、6月27日にカラ競馬場で行なわれた愛ダービー(12F)に駒を進め、ここを快勝したケイプブランコ。同馬が参戦することで、03年のクリスキン対アラムシャー以来7年振りに、キングジョージにおける英愛ダービー馬直接対決が実現することになった。
これだけの実績馬なのに、人気面でワークフォースに大きく水をあけられ、古馬代表のハービンジャーにも遅れをとる3番人気に甘んじているのは、ダンテSと愛ダービーの間に走ったG1仏ダービー(2100m)、で、1番人気を裏切り10着と大敗した要因の総括がなされていないためだ。陣営も首をかしげる不可解な惨敗を喫している馬だけに、信頼は置きづらいというのが、前売り市場の評価のようである。
4番人気は、12倍から15倍のオッズで3頭の古馬がほぼ横並びになっている。
1頭は、3月にメイダンで行なわれたG1ドバイシーマクラシック(2410m)で、ブエナビスタを退けて優勝したダーレミ(牝5、父シングスピ-ル)。その後、3か月半ぶりの出走となったと前走のG1エクリプスS(10F7Y)では、5頭立ての4着と案外なレース振りだったが、あくまで目標はここで、能力通りの競馬をすれば上位争い必至の実力馬である。
続く1頭は、この戦線の常連ユームザイン(牡7、父シンダー)だ。叩かれて良くなるタイプらしく、今季3戦目となった前走のG1サンクルー大賞(2400m)で、勝ったプルマニアの鼻差の2着に健闘。「G1・2着」は自身7度目のことで、すなわち本来の動きを取り戻したと見て良く、ならばここも連対に絡んで不思議ではない。
もう1頭が、フランスから遠征してくる4歳牝馬ダリヤカーナ(牝4、父セルカーク)。昨年12月、デビューから無敗の5連勝でシャティンのG1香港ヴァーズ(2400m)を制し、今季の更なる飛躍が期待された馬である。今季初戦となったサンクルーのG2コリーダ賞で3着と敗れて連勝がストップ。前走、牡馬に挑んだG1サンクルー大賞(2400m)も3着と、今季はここまで未勝利だが、ゴール前は3頭横並びの接戦となり、勝ち馬に鼻+短首だけ及ばなかった前走は、内容の濃い敗戦であった。アスコットの坂を苦にしなければ、この馬にチャンスが巡る場面もありそうだ。
キングジョージの模様は、翌25日(日曜日)にJRA各競馬場やウィンズの場内テレビで放映される他、グリーンチャンネルの競馬中継内でも放送されるので、ぜひご注目いただきたい。
合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。