2010年07月27日(火) 23:00 0
8月に入ると、世界のブラッドストック・セール・サーキットがいよいよ、イヤリングたちによるプレミアマーケットの季節に突入する。
景気の二番底が心配される中、フォード、アップル、マイクロソフトといった大手企業の4-6期決算が当初の予想を上回る好結果と判明するなど、回復基調にあることが再確認されたのがアメリカの一般景気だ。
そんな中で行われたのが、プレミアよりは1つ下のクラスの馬たちが集まったファシグティプトン・ケンタッキー・ジュライ(7月13日・14日)で、上場頭数の減少によって総売り上げは落ちたものの、平均価格は前年比でわずか2.5%の下落にとどまり、前年36.8%だったバイバックレートが28.7%まで縮小するという、堅調なマーケットが展開された。
それでは、8月2日・3日の両日にわたってニューヨーク州サラトガで行われる「ファシグティプトン・サラトガイヤリング」へ向けて、市場関係者が楽観的な観測を持っているかと言えば、むしろ逆だ。繰り返すが、サラトガイヤリングは血統、馬体とも最上級の1歳馬が上場されるマーケットである。高額馬を巡って世界のトップバイヤーがしのぎを削るというのが、本来あるべき姿なのだが、このところ世界の競走馬市場は、高い方の価格帯におけるドンパチが影をひそめているのである。7月のケンタッキージュライでも、前年7頭いた30万ドル越えが今年は3頭と、トップエンドのマーケットはおとなしかったのだ。従って、サラトガの市場も懸念する声が少なくないのである
一方、ヨーロッパに目を転じても、一般景気の足取りは相変わらずおぼつかない。懸念された金融機関のストレステストは、予想ほど悪い結果ではなかったものの、金融システムは健全化とは程遠い状態にある。そんな中で迎えるのが、フランドのドーヴィルで行われる「アルカナ・オーガスト・イヤリング(8月13日~16日)」だけに、関係者は期待と不安がないまぜになった気落ちでその時を待っている。
1つだけ明確なのは、日本人購買者にとって、為替相場がかつてないほど有利な状況を迎えているという点だ。1年前の同時期に比べ、対ドルで10%ほど、対ユーロだと20%近く円高に推移しており、すなわち、アルカナ・オーガストで昨年と同じ価格の馬を買えば、円で支払う時には20%のディスカウントになるのだ。この大きなアドバンテージを、ぜひ活かしてもらいたいものである。
「サラトガ・イヤリング」は、2日間で200頭余りが上場予定。
エーピーインディ、ディストーテッドヒューモア、ジャイアンツコウズウェイ、メダグリアドロー、ストリートクライ、ティズナウ、アンブライドルズソングといったリーディングサイヤーたちの産駒に加えて、06年の全米年度代表馬インヴァソール、07年のケンタッキーダービー馬ストリートセンス、同2着馬ハードスパンといった新種牡馬の初年度産駒に注目が集まっている。
厩舎スズメたちの間で、セール最高価格馬ではないかと噂されているのが、上場番号50番の父ダイナフォーマーの牝馬だ。ドバイWC、インターナショナルSなどを制したエレクトロキューショニストの妹という良血に加え、馬の出来も最高と、早くも大きな評判となっているのだ。
「アルカナ・ドーヴィル」は、4日間で470頭余りが上場予定。
日本と英国で立て続けにダービー馬を出したキングズベストの産駒が3頭、キングジョージで驚異的パフォーマンスを見せたハービンジャーの父ダンシリ産駒が10頭上場予定なのをはじめ、ケイプクロス、ダラカニ、デインヒルダンサー、ガリレオ、モンジュー、オアシスドリーム、ピヴォタル、シャマーダル、シングスピール、ザミンダーといったリーディングサイヤーたちの産駒がスタンバイ。また、07年の英ダービー馬オーソライズド、07年の欧州年度代表馬ディラントーマス、07年ワールドサラブレッドランキング首位のマンデュロ、06年欧州2歳王者テオフィロらの初年度産駒にも注目が集まっている。
こちらの厩舎スズメは、母がBCジュヴェナイルフィリーズ勝ち馬という上場番号36番の牝馬(父ガリレオ)、現役時代は欧州2歳チャンピオンで、現在は種牡馬として大ブレーク中のシャマーダルの妹にあたる上場番号47番の母ヘルシンキの牝馬(父モンジュー)あたりが最高値と囁いているが、果たしてどうなるか。
いずれもセールも現地で取材予定なので、日本にやってくる馬のレポートも含めて、このコラムでご報告したいと思っている。
合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。