2010年07月28日(水) 00:00 0
本州ほどではないとはいえ、この時期になると北海道でもかなり気温が上昇してくる。
それとともに、牧場関係者にとって頭の痛いのが「虻」の大量発生だ。
虻はかなりの種類にわかれているらしいが、ここではそれらを総称して単に虻と表記しておく。
ひとたび晴れて気温が上昇してくると、馬は虻を追う作業に相当なエネルギーを取られてしまう。馬の場合、虻を撃退する“武器”は、主として尻尾と口だが、大きな体の各所に弱点を持っている。腹の下や背中、胸前などで、虻はそういう馬からの撃退が難しいところに巧妙に取り付き、吸血する。馬にとっては何とも始末の悪い害虫だ。
虻撃退グッズとしては、一般的には防虫スプレーなどだが、近年、馬服に似た形状の「着用防虫ネット」なども市販されている、らしい。
ただし、もちろんそれには対価が発生するし、破られたりするとまた新調しなければならなく、何とも不経済である。
浦河町で生産牧場を営む小柳義彦さん(65歳)は、今年、その「着用防虫ネット」を自作し、効果を上げている。
「うちは山に近い放牧地で風があまり通らない場所なので、どうしても虻が発生しやすい環境です。それで以前から何とかしたいと思っていました」と小柳さんは言う。
そこで、市販の製品を参考にして、自作することにしたのだそうな。
用意するのは、ビニールハウスなどにも使用する市販の防虫ネットと、ある程度幅のある丈夫な紐、そして、伸縮するゴム製の紐。これだけである。
馬の体格にもよるが、標準的な繁殖牝馬の場合、1m四方程度の大きさのネット前部中央に、幅30cm、長さ50cm程度の突起部分を継ぎ足す。そして、腹巻のようにして馬の腹部に当てるのである。
「馬は何と言っても腹の下に止まった虻を追い払うのが苦手。だから、背中よりも腹の下を守るような形にした」(小柳さん)とのことで、この防虫ネットを首と、背中三箇所の紐で固定するのだそうだ。
「この場合、首の部分はゴム紐にしなければ具合が悪い。なぜならば、馬は通常、下を向いて草を食むんですが、その時に、どうしても胸前が開いてしまう。するとそこから虻がネットの内側に侵入してしまうので、それを防ぐために、伸縮する素材の紐にしました」とのこと。
馬によっては、頻繁に破ったり引きちぎったりしてしまうようだが、この手作りネットの使用前と使用後では格段に馬の様子が変化したという。
「あまり虻に気を取られなくても過ごせるようになったことで、パニックになって走り回ることも今はほとんどありません。効果はかなりあると思います」(小柳さん)
ネットそのものの強度を高めるために、縁取りをする必要があるが、なかなかそれに適した材料がないのが悩みだという。ズック地のような丈夫な素材で、ある程度の厚みと幅(最低5cm程度)があれば本当にいいんだが、と小柳さんは言う。
今のところ腹巻タイプしか製作していないが、いずれは馬服のようになったタイプも試作したい、とか。
「背中や尻の頂上あたりに止まって動かない虻がいるでしょう?馬によっては虻を追い払うのが下手なのもいますから、なるべく死角のできないような形状のものを作ってやりたいですね」
かつては、お盆を過ぎる頃には虻がかなり減っていたものの、近年は徐々にその活動期間が延びる傾向にある。なるべく簡単に着脱できて、しかも効果の期待できる防虫ネットをどうやって作るか、これはまだまだ研究、開発する余地のある分野であろう。
田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。