サンタアニタ競馬場の馬場問題に大きな動き

2010年08月24日(火) 00:00

 ここ数年、様々な紆余曲折があり、議論の的となってきた北米カリフォルニア州のメイントラックの1つ・サンタアニタ競馬場の馬場問題に関して、先週、大きな動きがあった。

 まず8月18日(水曜日)夜、サンタアニタを所有するマグナ・エンターテインメント社の会長であるフランク・ストロナーク氏が、デルマー競馬場における競馬開催の後に行なわれた会合の席で、カリフォルニアを本拠地とする200名ほどの競馬関係者の前で、「サンタアニタの馬場を旧来のダートに戻そうと思う」と語ったのだ。具体的には、12月26日から始まる冬春開催までに、500万ドルから600万ドルの費用をかけて、現在敷設されているプロライドというブランドの人工素材を撤去し、ダートを敷設すると述べたのである。

 07年の春開催が終了後、メイントラックの馬場を従来のダートから「クッショントラック」というブランドの人工素材に変える工事を行ない、同年9月26日に開幕した「オークツリー開催」から人工素材での競馬をスタートさせたサンタアニタ。ところが実用化して見ると、思わぬ事態が起きた。別名「オールウェザートラック」と呼ばれるように、天候に左右されることなく使用出来るはずの人工馬場が、まとまった雨が降るたびに水が浮き、翌08年春までに11日もの開催が馬場使用不能のために中止に追い込まれたのである。

 基盤部を含めた排水機能に大きな問題があることがわかり、抜本的な対策をとることを迫られたサンタアニタは、08年の春開催終了後に再び馬場の改修を行い、今度は「プロライド」という素材の人工素材を敷設。08年のオークツリー開催から、プロライドを用いた競馬をスタートさせた。ところが、排水の問題は解決せず、今年だけで既に、馬場状態不良で開催を中止した日数は5日に達していた。

 このまま放置するわけにはいかず、かといって、親会社マグナの経営状態が芳しくないことから、これ以上の巨額の投資は困難と見られており、サンタアニタの競馬はいったいどうなることやらと、関係者もファンも気を揉む日々を過ごしていたのであった。

 そんなさなかに飛び出したのが、冒頭のストロナーク発言だったのだ。現場を預かる調教師たちにはダート支持派が多いだけに、会場内は概ね「発言歓迎」のムードであったと伝えられている。

 だが一方で、ストロナーク発言がそのまま実行に移されるかというと、そうは簡単には行くまいと見る関係者も多かったことは事実だ。

 サンタアニタの馬場を変えるには、カリフォルニア・ホース・レーシング・ボード(CHRB/州競馬委員会)の承認が必要となる。

 州の競馬を司るCHRBが、州内の競馬場はすべからくオールウェザートラックを敷設すべしと大号令を発したのが、06年春だった。財政的に馬場の改修は困難であるとした、北カリフォルニアのベイメドウズ競馬場に対して、ダートのままでは開催を認めないと突っぱね、結局ベイメドウズは08年8月をもって競馬場閉鎖に追い込まれている。それほど、オールウェザー化推進に強硬な姿勢を示して来たCHRBが、サンタアニタのダート回帰をすんなりと了承するかどうか、簡単なことではないというのが、大方の見るところだったのである。

 その、CHRBの月例総会が開催されたのが、翌日の8月20日(木曜日)であった(ストロナーク発言は当然、翌日の総会を見据えたタイミングで出たものだ)。

 ここで討議されたのは、12月以降のサンタアニタの馬場問題ではなく、9月29日から10月31日の期間で予定されているサンタアニタ競馬場のオークツリー開催を、問題なく開催できるか、であった。

 今年の春開催終了後、サンタアニタは更なる馬場改修を行い、排水を効率的に行なうことを目的として馬場の基盤部に岩盤層を取り入れた。新たな馬場はCHRBが派遣したエキスパートによって検分されたのだが、基盤部がかなり固くて馬の脚元にやさしいとは言えず、かつ、水の浸透度もゴール前とコーナー部分で差があることが判明。導きだされた結論が、「サンタアニタの馬場には依然として問題があり、安全面を考慮すれば、秋の開催にゴーサインを出すことは出来ない」というものだったのである。

 CHRBは今後、ハリウッドパーク競馬場関係者と折衝し、9月29日からの秋開催を代わりに行なうことが可能かどうか、検討に入ると伝えられている。

 この決定には、2つの大きな意義がある。

 1つは、サンタアニタのプロライドに、オールウェザー推進派のCHRBも”ダメ出し”をした、ということ。

そしてもう1つが、オークツリー開催がなくなれば、冬春開催のはじまる12月26日まで、ダート敷設のための充分な工期を確保出来るのである。

 話がここまで進むと、「サンタアニタは12月開催からダート」で決まりのようにも見えるが、現地の関係者に話を聞くと、まだひと揺れ、ふた揺れありそうとのこと。

 サンタアニタの内部には、現行の人工馬場に更なる改良を加え、なんとかオークツリーを安全に開催できるレベルまで持ってこようという動きもあったと聞く。さすがに時間的に「それは無理」となったが、競馬場側には依然として人工馬場へのこだわりを捨てきれない一派もいるようだ。

 そして、CHRB内のオールウェザー推進派も、巻き返しを図ることが必至である。

 カリフォルニア州の馬場問題からは、まだ目が離せないというのが実情のようだ。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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