JRAジョッキーDAY~帯広

2010年08月25日(水) 00:00 0

 すでに各報道でも知られている通り、8月23日(月)に帯広競馬場で恒例の「JRAジョッキーDAYエキシビションレース」が2レース行われた。

 この日の帯広は気温がやや低めで過ごしやすかったが、お昼過ぎから雨が降り出し、ついに夜になっても止むことがなく、あいにくのコンディション。そんな中、“発起人”の藤田伸二騎手(連続4回出場)を始め、安藤勝己騎手、横山典弘騎手、四位洋文騎手、田中勝春騎手など10人が顔を揃えた。

 今年の“目玉”は、やはり何といっても初登場の武豊騎手である。武騎手の人気は大変なもので、帯広競馬場には月曜平日にもかかわらず、多くの観客がつめかけた。

 ご一行が帯広市長に表敬訪問の後競馬場に到着したのは午後3時前のこと。あいにくの雨のため、急遽トラック(荷台が横に開くタイプ)が用意され、そこを臨時の舞台に見立てて、一同が紹介された。そしてすぐ騎乗馬決定のための抽選が行われた。

(写真・武豊騎手レース前私服姿)

 あらかじめ主催者側より配布されたスケジュール表によれば、この後午後3時25分~35分に武豊&田中勝春両騎手、そして3時55分~4時5分に上村洋行&藤岡佑介両騎手たちの「練習」が行われることになっていた。

 しかし、前述したように、依然として雨は降り止まないどころかますます強くなっており、ついに練習はせずにいきなり本番を迎えることとなった。藤田騎手のような「ベテラン」はともかくも、初参加の各騎手は不安が過ぎったことであろう。

 一方、この練習時間に合わせて競馬場入りした報道陣も多く、練習中止のあおりを受けて早くも取材予定を変更せざるを得なくなった。とにかく、悪天候がすべての元凶であった。

 JRA騎手たちの控え室は、スタンドに隣接する事務所二階の奥の一室。単独取材は禁止されており、また控え室に近づくこともできない。練習がなくなったことにより、唯一のチャンスは、それぞれ2名ずつが協賛している(第3~第7競走)協賛レースの際に、プレゼンターとしてスタンド前に姿を現した時にコメントをもらう以外になくなってしまった。

 金額は不明だが、今回参加した10人のJRA騎手たちがポケットマネーを協賛レースに拠出している。こっそり田中勝春騎手に「いくら出しているんですか」と問うと「さあ。終わってから請求が来るだけなんで今はまだ分かりません」とのことであった。金額は全員横並びだそうである。

 それぞれの協賛レースが終わると、2名ずつ出てきて表彰式に参加する。それを目当てに埒沿いには雨にもかかわらず多くのファンがじっと待っていた。主催者の広報担当が「すいませーん。時間がないのでサインは…などと制止するものの、何人もの騎手がファンサービスに応じていた。

(写真・サインに応じる横山騎手)

 表彰式の後は口取りだが、雨のためこれもスタンド前で行うことができず、ファンエリアから見えない場所まで戻っての撮影となった。雨さえ降っていなければこういうこともパドックで(ファンの眼前で)できるのに、何とももどかしい。雨は時折小降りになったかと思うとまた強くなったりと繰り返しであった。協賛レースは武兄弟の第7レースで一区切りとなった。

(写真・武豊・幸四郎賞口取り)

 いよいよ10人が勝負服に着替えて登場する時間がやってきた。エキシビションレースの第1レースは午後6時18分発走予定。注目の武騎手はトマランサーに船山蔵人騎手とのコンビで乗る。また田中勝春騎手は父・春美さん(新ひだか町で牧場経営兼JRA馬主)の所有するギンガリュウセイに騎乗しての出走だ。

 雨の中、パドックに10頭が出てきた。場内から「武さーん」などと黄色い声援が飛ぶ。騎乗するのはJRA騎手たちで、それをばんえい競馬の騎手や厩務員たちが二人引きで引く。パドックを一周してすぐにスタート地点へと向かう。エキサイトゾーン最前列に並ぶファンから盛んに声がかかる。それにしても、JRA騎手たちは一様にみんなとても楽しそうな表情になっている。

(写真・武豊騎手のパドック)

(写真・横山典騎手のパドック)

(写真・藤田騎手のパドック)

 ほぼ予定通りにゲートが開き、第1レースがスタート。橇に2人乗っている姿は何とも不思議な光景に見える。第2障害を内枠の2頭(藤岡騎手、勝浦騎手)が真っ先に上ってくるのが見える。

(写真・藤岡&勝浦騎手)

 武豊騎手や横山騎手も坂にさしかかり、場内のボルテージが最高潮に達した。馬券発売はないのだが、この盛り上がりを見ていると、それがとても惜しくさえ感じられる。初参加の武騎手はややぎこちない姿勢で必死に手綱を操ったものの、7着。勝ったのは藤岡佑介騎手で2着は勝浦正樹騎手という結果であった。

(写真・武騎手レース)

 通常通りの全12レースをこなしながら、合間を縫ってエキシビションレースを実施するため、現場はやや混乱が見られた。「馬が驚くから」という理由で私たちカメラマンが撤収を命じられる一幕もあり、エキシビション第2レースは7時33分予定の発走がやや延びて、45分にスタート。第1レースで最下位に甘んじた藤田騎手が、ここでは断然のトップ独走で、見事に1着。このレースでは「リストラ中高年の星」として今話題になっているゴールデンバージ(牡13歳)も出走し、四位騎手が騎乗したが7着に終わった。無理もあるまい。この馬は、前日(22日)に草競馬へ出走しており(共和町)、さらにその前日(21日)にはここで通常のレースにも出ている。つまり三連闘?となるわけで、サラブレッドの感覚ではいくら何でも無理があるだろうとも思ったのだが、割に馬は平気そうであった。

(四位騎手とゴールデンバージ)

 結局、このレースでも4着に入った藤岡佑介騎手が総合優勝し、注目された武豊騎手は8位に終わった。

 とはいえ、勝っても負けてもみんなニコニコと笑顔で引き上げてきて、雰囲気はひじょうに和やかだ。藤田騎手が「俺、だいたい一人で(後ろの本職の助けを借りずに)乗れたぞ」と興奮気味に語り、武豊騎手は「後ろ(ばんえい騎手)と入念に打ち合わせたけど思ったより真っ直ぐ進まないので難しかった」と反省。ただし「とても楽しかった。来年もまた来たい」と付け加えた。

 次のレースがすぐ控えているため、慌しい雰囲気の中での取材となったが、ゴール板を過ぎたところで双方の騎手たちが並んでの記念撮影では、とりわけJRA騎手たちの笑顔が印象的であった。

(写真・記念撮影)

 この日の帯広は“武豊効果”もあって入場者は前年より6割も多い3590人。売り上げも8792万3100円と、目標金額を大きくクリアしたという。

 改めて、スター騎手が揃えば間違いなく多くのファンが競馬場に足を運んでくれることをまざまざと見せ付けられた一夜であった。ただ、いつまでも現役ではいられないのが騎手の宿命で、武豊騎手もすでに41歳。まだ引退は先のことだが、この人が現役を退いた後のことを考えるとかなり不安になってくる。まだまだ武豊騎手は文字通りの「主演男優」なのである。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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