2010年11月10日(水) 00:00
目の前の馬についてどれだけ知っているのか、時折自問することがある。これは時折であって、普段はまるで気にしていないのだが、一旦考え出すと止まらなくなる。
この種のことは、より具体的になにかを設定しないことには先に進まない。そこで人が習慣としている生活行動にしぼって、取り合えず、毎日やっている歯みがき、そう、歯について考えてみた。
馬が歯を磨くとは聞いたことがない。それは、馬が唾液の多い生き物で、その唾液の殺菌作用で全くといっていいほど虫歯にはかからないからだということらしい。だからと言って、歯に気を使わないというのではない。
こんな言葉を聞いたことがあった。「歯を知る飼い主は馬を細らせることがない」と。
歯の何を知るかだが、それは、歯の抜け替わりと摩滅状態なのだ。このうち人間と大きく異なっているのは、歯の減り具合で、人間は先端部分が平らに減るのだが、馬は、歯の先端から内側に向かって斜めに減るのだそうだ。どういうことなのか、最初聞いたときには理解できなかったが、違いは、咀嚼するときのアゴの動きにあると知った。
人間は咀嚼するのに下アゴを動かすのだが、馬などほとんどの動物は上アゴを使っている。上アゴを使った咀嚼がどうなるか、ちょうど臼でかき回したようになり、そのため歯の内側部分が斜めに減っていき、やがて、先端部分が石を研いだようにとがっていくのだ。とがった歯が粘膜を痛めることがあり、人間の口内炎と同じにものを食べるとしみたりするのでカイバ食いが落ちる。だから、歯の磨滅状態をよく観察しなければならないと言うのだ。「歯を知る飼い主は馬を細らせることがない」とは、こういうことを言っているのだ。乾燥物を主食にしている馬は、かみ砕く力がいるので、歯の磨滅は早いから、ヤスリで手入れをしてやらなければならない。大事な言葉を思い出すことができた。
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長岡一也
ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。