2010年11月17日(水) 00:00

 自分の足元を見つめてとか、固めてとか言って、うわついた心を戒める。そんな有頂天になれるようなことは滅多にないが、それより、他人の甘言に気持ちがぐらつくことはよくある。競馬には、この甘い誘いがいくらでも潜んでいるから、よほど気持ちをしっかり持っていないと道を誤るとは、よく経験してきたことだ。

 この場合の足元は、心の持ち方だが、歩く足だってしっかりしていないと不都合だ。

 さて、馬の場合は、足元と言っても蹄になる。「蹄なくして馬なし」と言って、その良し悪しは能力にも影響する。蹄が健全であれば運動量も豊富にできるからだが、この蹄は馬体を支える土台。疾走しているときに体重を支え、地面からの衝撃を緩和する機能を果たしてくれる。

 こんな重要な蹄だから、普段の手入れはとても大切だ。入念に手をつくす姿をよく見てきた。古くからよく言われてきた言葉を思い出す。「馬のつめはお湯を使わず水で洗え」と。お湯を使うと一時的につめがやわらかくなるが、油気が抜けてあとで硬くなってしまうからだ。「馬の手入れで一番大切なのはひづめ」と言って、それこそ入念にやらなければならない。泥をきれいにぬぐったあと、蹄油をつけてやるのだ。

 とにかく、つめが硬く乾燥しないようにしてやらなくてはならないのだが、扱う人の苦労はあまり知られていない。

 馬の疾走する姿を見ると、体重が前脚により多くかかっているのがわかる。そして着地のとき、かかとから入っていく。ここへの負担は相当であると思われる。脚の形が内向肢勢だと前脚のカカトの内側にショックが加わり、たてに割れやすく裂蹄を引き起こす原因になると言われるが、つまりは裂蹄になるような馬はそれだけ走る馬と言えるのではないか。「蹄なくして馬なし」という言葉の意味するものは、とてつもなく大きい。

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長岡一也

ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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