ジャパンCの外国招待馬は多彩な顔触れ

2010年11月23日(火) 00:00

 第30回ジャパンCの外国招待馬は、5か国8頭という多彩な顔触れとなった。

 勝っているレースの格から言えば、最上位はアイルランドからの参戦となるジョシュアツリー(牡3、父モンジュー)となろう。2歳9月に、翌年のクラシックへの登竜門の1つと言われる、アスコットのG2ロイヤルロッジSを制してダービー候補の1頭と数えられることになった同馬。小さな故障が重なり3歳初出走が8月までずれこんだため、クラシックは棒に振ることになったが、復帰後3戦目にウッドバインのG1カナディアン国際を制することになった。もともとの期待馬が、遅ればせながら本領を発揮したと言えそうだ。使い込まれていないから馬もフレッシュなはずで、前走からの更なる上積みも期待できそうである。カナダに遠征してのG1勝ちだから、アウェイでの戦いにも充分に対応出来る馬と判断して間違いない。

 ただし、同馬が制した今年のカナディアン国際は、残念ながら水準としてはかなり低く、G1の称号を額面通りには受け取ってはいけないと見る。速い時計の決着に対する適性にも疑問が残るし、結論を言えば、G1勝ち馬という実績を評価されて外国勢の中で人気になるようなら、敢えて蹴飛ばしたい1頭である。

 もう1頭のG1勝ち馬がイタリアからの参戦となるヴォワライシ(牡5、父デイラミ)だ。現在のイタリアのこの路線では、間違いなく最強クラスの1頭である。イタリアにおける競馬の水準は、イギリス、フランス、アイルランドなどに比べると確かに劣り、この馬が勝っているG1ローマ賞を例えば凱旋門賞やキングジョージと同じ俎上に乗せて考えることは出来ない。その一方で、水準の低さを見越してイギリス、フランス、アイルランドなどからそれなりのクラスの馬が遠征するのが常で、そうした馬たちと互角か互角以上の競馬をしているこの馬の力量を、イタリア調教馬というだけで侮ることは出来ないと思う。夏休みを挟んで、ここが秋3戦目というローテーションも、ジャパンCに照準を合わせてきた気配濃厚である。日本の競馬を良く知るミルコ・デムーロの御手馬だけに、来日に際しては彼の助言もあったと思われ、そうなると、マイケル・ロバーツの推薦で来日し95年のJCを制したランドを思い出す。従って、最初からミルコの騎乗が決まっていたら「買い」の目もあったのだが、当人はヴィクトワールピサに乗りたかった節があり、そうなると、大きくとり上げるわけにはいかないというのが結論だ。

 G1勝ちには届いていないが、G1・2着という実績があるのが、フランスから参戦してくるモアズウェルズとカナダから遠征してくるフィフティープルーフである。

 2〜4歳時はアイルランドのケヴン・プレンダーガスト厩舎に所属していたのがモアズウェルズ(牡6、父サドラーズウェルズ)だ。当時から重賞戦線の常連で、3歳春には愛ダービーにも駒を進めて5着に来ているし、4歳時には愛チャンピオンSや愛セントレジャーといったメジャーG1でも入着を果たしている。足かけ5年にわたってトップ戦線に居残るというのは並大抵のことではなく、この馬の地力とタフさは素直に評価すべきだろう。この秋は、スウェーデンに遠征してストックホルムの国際競走を制した後、カナダに廻ってカナディアン国際が勝ったジョシュアツリーの頭差2着だった。すなわち、遠征先でもしっかりと力が出せる馬である。

 ただし、勝ち鞍としてはG3までしかなく、そうした実績の馬が日本を舞台としたレースで日本のトップクラスに勝てるとは到底思えない。6歳秋を迎えており、突然の変わり身が期待できるわけでもなく、馬券圏内に入るのは困難というのが結論である。

 同じG1・2着馬ではあるが、事と次第によっては穴の狙いを立てられなくもないのが、フィフティープルーフ(セン4、父ウィスキーウィズダム)だ。 大型馬で仕上がりが遅れ、重賞に顔を出したのは今年9月のG1ノーザンダンサーSが初めてだった同馬。そこでいきなり2着となって、カナダ芝路線にニュースター誕生かと騒がれることになった。もっとも負けた相手が、欧州ではG3勝ちの実績しかなかった英国調教馬レッドウッドだったから、そうは高く評価出来ないというのが客観的見方であろう。続くG1カナディアン国際も、勝ち馬とは1馬身と少ししか離されていないとは言え5着に敗れ、重賞未勝利のままでJC参戦となった。ちなみにこれまでウッドバイン競馬場でしか走ったことがなく、遠征に対する耐性は全く未知数である。

 そんな実績の馬になぜ穴の狙いが立つのかと言えば、理由は3つあって、1つはキャリアが浅くてまだ上昇の余地を残していること。1つは超大型馬で、広い府中の馬場は合いそうなこと。そして、この馬は逃げる競馬をするのだが、今年のJC出走馬には典型的な逃げ馬がおらず、かなりの確率で単騎逃げとなりそうな点だ。まわりがバカにして楽に逃がした場合、漁夫の利を得る可能性がないこともない………。かな?!。

 G1での好走実績はないものの、G2、G3ではタフにかけ続け、重賞3勝の実績を積み上げてきたのが、シリュスデゼーグル(セン4、父イーヴントップ)である。3歳時の昨年、年間で17戦もしている事実にまず驚く。しかも、こういう使われ方をしながらシーズンの後半になって馬が上昇し、暮れには香港にまで出向いているのだから、そのタフネス振りは筋金入りだ。更に言えば、こういう使われ方をしながら、ここまで26戦して6着以下が無いというのは、驚くべき粘り強さと言えよう。どんな競馬場でも、どんな馬場になっても、どんな展開になっても必ず上位に来るということは、遠征競馬に向いたタイプと言えよう。日本でも、環境の変化や競馬の形態の違いに我慢を重ねて対応し、終わってみたら、それなりの結果に結び付けている可能性は大いにあると思う。ちなみに、5着に敗れた昨年の香港ヴァーズで、この馬に半馬身だけ先んじて4着を確保したのがジャガーメイルであった。

 今年の外国馬の中で、掲示板に載る確率が最も高いのは、この馬であろうというのが結論である。

 今年の外国馬8頭の中で、硬くて時計の速い日本の馬場への適性が最も高いのは、イギリスから遠征してくるダンディーノ(牡3、父ダンシリ)である。創設当初のジャパンCであったなら、欧州のトップ戦線ではひと息足りなくても、日本競馬への適性が高ければ好勝負が期待出来たのだが、時代は変わった。日本馬の力が向上した今、基本的な能力と日本競馬への適性を兼ね備えてなければ、外国馬が彼らにとってのアウェイである東京で日本のトップクラスと好勝負することは出来ず、そういう意味では、G3ゴードンS・2着がここまでの最良のパフォーマンスというダンディーノの実績は、はっきり言ってまるで物足りないというのが結論である。

 一方、そこそこの力はあるものの、日本競馬への適性に大きな疑問が付くのが、マリヌス(牡4、父ニューメラス)だ。欧州で「道悪の鬼」と言われている馬が、府中の馬場をハンドリング出来るとは思えず、この馬も馬券絡む可能性は低いというのが結論だ。

 力量面でも適性面でも物足りないのがティモス(牡5、父ショロコフ)で、これも馬券の対象にはなりづらいだろう。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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