2010年12月07日(火) 00:00
アジアに舞台が移っている競馬のワールドサーキット。今週末は4つの国際競走が行われる香港のシャテイン競馬場がセンターステージとなる。
今週の当コラムは、日本馬が出走する2レースを中心に、その展望をお届けしたい。
まずは、ジャガーメイル(牡6、父ジャングルポケット)が出走する2400mの香港ヴァーズから。
ここは相手関係から推して、ジャガーメイルにおおいにチャンスがあると見ている。と言うのも、芝2400mという条件からして、欧州からそれなりの顔触れが参戦すれば当然有力視されるところだが、その欧州勢が迫力に欠ける顔触れだからだ。
例えば、レイティング最上位のアメリケイン(牡5、父ダイナフォーマー)は、御存知のようにG1メルボルンCの勝ち馬で、地元で制している2重賞もいずれも3000m級という、生粋のステイヤーである。メルボルンC直前に豪州で、弱敵相手に2400mのG3を制しているものの、はっきり言ってこの路線の馬ではなく、よほど雨でも降って力の要る馬場にならない限り、出番は廻ってこないものと見る。
レイティング2位は、2度にわたって制している国際G1クイーンエリザベス2世Cを含めて重賞11勝という地元の雄ヴィヴァパタカ(セン8、父マージュ)だ。前走、休み明け緒戦に路線の違うG2ジョッキークラブ・マイルを選択し、これをひと叩きされて臨むというローテーションは不気味だが、マイル以下の水準が高い一方で2000mを越える距離の水準は低いのが香港である。ヴィヴァパタカ自身、2400mの香港G1を3度制しているものの最適距離は2000mで、昨年のこのレースでも着外に敗れているように、ここではやや家賃が高いような気がする。
G1・3勝という実績は、出走メンバー中随一なのが、アメリカから参戦のウィンチェスター(牡5、父シアトリカル)だ。だが、アメリカの芝路線も全体的なレベルは低調で、デンジャラスミッジに4.1/4馬身置かれた前走のBCターフが、世界的に見たこの馬の評価を正当に表していると思う。ここにデンジャラスミッジが居れば、ジャガーメイルの好敵手となろうが、ウィンチェスターなら楽に退けることが出来るはずだ。
相手はやはり欧州勢と見る。春のドバイWCで5着と悪くない競馬をした後、半年以上の休みを挟んでここが復帰後3戦目となる、昨年のセントレジャー勝ち馬マスタリー(牡4、父スラマニ)が、その筆頭格だろう。また、名伯楽マイケル・スタウトが送り込む、重賞3勝馬クリスタルカペラ(牝5、父ケープクロス)にも要警戒である。
ジャガーメイルは、ジャパンCから中1週という臨戦態勢が懸念されているが、有馬記念が行われる中山は不向きと当初から陣営の眼中になかったようで、年内にもう1戦するとすれば「ここ」というのはジャパンC前からの目論見であったと聞く。ここが秋3戦目で、初戦の天皇賞・秋はほとんど競馬をしていないことを考えれば、馬はまだ充分にフレッシュなはずだ。という事で、ここはジャガーメイルに、センターポールに日の丸を翻すことを期待したい。発走は、現地時間午後2時ちょうど、日本時間の午後3時ちょうどとなっている。
続いて、エーシンフォワード(牡5、父フォレストワイルドキャット)が出走する1600mの香港マイル。
ここは英国から参戦のパコボーイ(牡5、父デザートスタイル)が、レイティング的に1頭抜けていて、このメンバーでは最上位の力量を持つことは明白だ。ここが今季8戦目とかなり使い込まれている上に、前走はアメリカで競馬をしており、欧州勢に良く見られる「シーズン末の出がらし」が心配される臨戦態勢だが、ここが引退レースで”おつり”を残さぬ仕上げを施されており、状態面での不安はなさそうである。ポイントは、シャティンの馬場が合うかどうかに絞られよう。ゴール前の強烈な末脚が持ち味の馬で、猛然と追い込んで届かずという競馬も多く、かといって前目につけたムーランドロンシャン賞では良さが出なかったように、後ろから行くしか策が無いのが欠点である。果たしてあの競馬がシャティンで通用するか、結論から言えばここも、追い込んで届かずという競馬になるような気がしている。
昨シーズンがはじまる頃から世代交代が必要と言われていながら、依然として7歳馬や8歳馬が主導権を握っているのが、香港におけるこの路線だ。従って、グッドババが全盛だった頃と比べると、全体の水準はかなり下がっていると見て良い。
ただし、そんな中にあって侮れない存在なのが、エイブルワン(セン8、父ケープクロス)である。この馬、06/07年シーズンのチャンピオンズマイル優勝馬なのだが、当時は重賞未勝利だった同馬は単勝33倍の7番人気という伏兵で、スローで逃げたマイケル・キネーンの好騎乗に助けられた、いわばフロックの勝利と見られたものである。事実その後の同馬は、安田記念に来日して12着に大敗。07/08年シーズンは9戦して香港G3を1勝したのみ。その後は今年の春まで未勝利と、「フロック」の評価が間違っていなかったことを実証する競馬を続けていたのだが、そのエイブルワンが今年4月に香港G2のチェアマンズトロフィーを勝ったことをきっかけに、突然の大変身を見せたのである。続く国際G1チャンピオンズマイルも連勝。更に香港G3プレミアCも制して3連勝で09/10年シーズンを締めくくった同馬。今季初戦の香港G3ナショナルデイC、続く香港G3シャティントロフィーと、いずれも60キロを越える負担重量を背負わされながら2着を確保。そして前走の国際G2ジョッキークラブ・マイルではきっちりと勝利を収めるという、驚くべき安定性と充実ぶりを示しているのである。8歳を迎えて馬が変わるという、常識では考えられない進化を遂げたエイブルワンが、香港マイルの中心馬と見ている。
これに続く存在なのが、日本から呉越同舟で香港にわたった、エーシンフォワードとサプレザ(牝5、父サーム)だろう。
今年のサプレザは当初から、マイルCSから香港マイルという路線を計画しており、マイルCS出走時にはここを意識した仕上げであったことは、前年に比して18キロ増という馬体重に表れていたと思う。他頭数で外枠を引いた前走は、いかにも下手な競馬をして4着に敗れたが、京都よりは馬場が合いそうなシャティンなら、多少枠に恵まれなくともよいレースが出来ると見ている。
そのマイルCSをレコードタイムで制したエーシンフォワードも、この秋はまだ2戦しかしておらず、馬の状態は悪くないはずで、当然争覇圏にいる1頭だ。
香港勢ではもう1頭、今季の成績が安定しているサムズアップ(セン6、父シンコウキング)にも注意をしたい。
香港マイルの発走は、現地時間午後3時50分、日本時間の午後4時50分である。
日本馬の出走しない2レースにも、簡単に触れておきたい。
G1昇格以降は地元勢の独壇場となっている1200mの香港スプリントだが、今年はシンガポールから遠征しているロケットマン(セン5、父ヴァイカウント)に、香港勢の牙城を崩す期待がかかる。セイクリッドキングダム、グリーンバーディー、ジョイアンドファン、ウルトラファンタジーと揃った地元の精鋭を相手に、ロケットマンがどんな競馬をするかは、今年の香港国際競走における最大の見どころかもしれない。
メインレースとして行なわれる2000mの香港カップは、連覇を目指すフランス調教馬ヴィジョンデタ(牡5、父チチカステナンゴ)が中心。相手は、日本からハシゴしたスノーフェアリー(牝3、父インティカブ)、この路線のG1・4勝のスタセリタ(牝4、父モンズン)の、牝馬2頭だろう。
香港国際競走の模様は、午後4時45分からグリーンチャネルで放映予定なので、ぜひご覧いただきたい。
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合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。