ドガ展にて

2010年12月11日(土) 00:00 1

 先週ご紹介した「広島の競馬場展」(広島市郷土資料館)に続いて、今度は横浜市美術館で開催中の「ドガ展」を見てきました。

 ドガは、ご存知のとおり、19世紀半ばから20世紀初頭にかけて多くの秀作を残したフランス印象派の画家。バレエの踊り子や浴婦を描いた作品が有名で、今回の展覧会では、オペラ座のバレエをテーマにした「エトワール」という傑作が呼び物になっています。

 そのドガが好んで描いた題材の1つが競馬。私がなぜ、柄にもなく「ドガ展」に行ったかといえば、もちろんそれを見たかったからです。そこで出会えたのは、「アマチュア騎手のレース~出走前」、「障害騎手~落馬した騎手」、「田舎の競馬場で」、「出走前」という作品。さらに、晩年のドガが製作した馬のブロンズ像、「水を飲む馬」、「放たれた馬」、「荷を引く馬」、「駆ける馬と騎手」、そして、彼の没後にアトリエで見つかった競馬用の帽子にもお目にかかりました。

 ドガが競馬を題材にした絵画を描いたのは、1860年代から70年代にかけて。ちょうど、パリのブローニュの森にロンシャン競馬場がオープンし(1862年)、第1回のパリ大賞典が創設された(1863年)頃で、フランス近代競馬が幕を開けた時期に重なります。そういう時期特有の“熱い空気”と、ドガが持っていた感性や技術が相まって、歴史に残る名作が生まれたようです。

 ところで、先々週の「フランス競馬観戦記」に、先月私が訪れたアルジャンタン競馬場で製作されたドガの絵のことを書いたんですが、覚えていらっしゃいますか?そこでは、その作品の邦題を、引用した某観光案内サイトの記述どおり、「競馬場の馬車(プロヴァンスの競馬場Aux courses en province)」としました。実はこれ、今回の「ドガ展」に出展されている「田舎の競馬場で」という作品のことなのです。

 アルジャンタンは、フランス北西部・ノルマンディー地方にある町。そこで製作された作品なのに「プロヴァンス=南仏プロヴァンス地方の競馬場」なんて不思議だな、と思っていました。

 ドガは、1861年頃、アルジャンタンから20?ちょっと離れたメニル・ユベール・アン・エクムという町の友人宅に滞在していた時に、付近の競馬場を訪れ、競馬を題材にした作品を描いたそうです。

 で、先ほどの題名。よく見ると「province」の頭文字は小文字になっています。ということは、特定の地方を指す固有名詞ではなく、「いなか」を表す普通名詞だったわけです。つまり、南仏プロヴァンスとは関係のない題名だったんですね。「ドガ展」を見に行ったおかげで、ようやくその疑問が解けました。「今ごろ気が付いたのか」ですって?おっしゃるとおり、どうもスミマセン!

 なにはともあれ、今回はいいものを見せてもらったと思っています。では、また来週。

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矢野吉彦

テレビ東京「ウイニング競馬」の実況を担当するフリーアナウンサー。中央だけでなく、地方、ばんえい、さらに海外にも精通する競馬通。著書には「矢野吉彦の世界競馬案内」など。

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