進境著しい南アフリカ競馬

2011年01月25日(火) 00:00

 競馬の世界地図における勢力分布で、このところ進境著しい地域の1つが、南アフリカである。

 政治背景と検疫上の問題から、国際競馬の表舞台から姿を消していた南アフリカが、およそ30年に及んだ沈黙を破って再び脚光を浴び始めたのは、90年代後半であった。92年に南アで生まれ、ロスマンズ・ジュライ(現ダーバン・ジュライ)やJ&Bメットといった国内のチャンピオンシップを制したロンドンニューズ(SAF)が香港に遠征。97年のクイーンエリザベス2世Cを制した時、世界の競馬関係者は新鮮な驚きを覚えたものである。その後も、95年生まれのホースチェスナット(SAF)が地元で3冠を達成した後、00年に北米に渡って重賞を制し、ケンタッキーで供用されて種牡馬としても一定の評価を受けるなど、南アフリカの競馬と生産が依然として高い水準にあることを示す名馬が出現した。

 日本の競馬関係者がその台頭ぶりを肌で感じることになったのは、ドバイのインターナショナル・カーニヴァルにおける、南アフリカ勢の活躍だった。皮切りとなったのは03年、ヴィクトリームーン(SAF)がUAE2000ギニーとUAEダービーを制覇。なおかつ、隣国ジンバブエで生まれたイッピトンビがドバイデューティーフリーを制し、ドバイに南アフリカ旋風が吹き荒れたのだ。ヴィクトリームーンは04年もドバイに参戦し、この年はマクトゥームチャレンジのラウンド2と3を連勝後、ドバイWCでも3着に健闘するなど、南アフリカ産馬の水準の高さを、日本人を含め世界の競馬関係者に誇示することになった。

 その後も、06年にドバイから香港に足を伸ばしたイリデセンス(SAF)が、シャティンのクイーンエリザベス2世Sを制したり、08年にはドバイデューティーフリーを制したジェイペグ(SAF)が勢いに乗ってアジアに遠征し,シンガポールのインターナショナルCを勝つなど、南アフリカ勢の攻勢は続いた。

 記憶に新しいところでは昨年春、ドバイWC、香港QE2C続けて2着となった後、シンガポールのインターナショナルCを制したリザーズディザイア、昨年11月に北米カリフォルニアのG1メイトリアークSを制したジプシーズウォーニング、昨年12月にシャティンで香港スプリントを制したジェイジェイザジェットプレインらも、南アフリカ産馬である。

 そんな、国際競馬の舞台で台頭著しい南アフリカの主要都市ケープタウンに、今週は世界の競馬関係者の注目が集まろうとしている。

 まずは何と言っても、南アフリカにおけるチャンピオン決定戦的位置づけにあるG1J&Bメット(ケニルワース競馬場、芝2000m)の開催が、週末の29日(土曜日)に迫っているのだ。

 本命視されているのは、昨年のこのレースの2着馬で、1月8日にケニルワースで行なわれたG1クイーンズプレートを制して5度目のG1制覇を果たしたマザーロシア(牝5、父ウィンドラッシュ)である。管理するのは、日本でもすっかりお馴染みとなったマイク・ドゥ・コック調教師だ。

 競馬ファンが、馬券を離れて応援することになりそうなのが、南アフリカに出現した近年最高の名馬と言われるポケットパワー(セン8、父ジェットマスター)である。このJ&Bメットを、07年から09年まで3連覇。J&Mメット史上、3度の優勝を果たした馬はポケットパワー以外に存在しない。G1クイーンズプレートは、07年から10年まで4連覇。1歳市場でわずか16万ランド(約220万円)で購買された馬が、9つものG1を制し、南アフリカ歴代最高となる993万ランド(約1億3660万円)もの賞金を収得し、既に伝説の領域にあるあるのが、ポケットパワーである。

 今季はここまで3戦1勝。5連覇を狙った前走のクイーンズプレートで4着と敗れ、さすがに年齢的衰えが指摘されはじめたポケットパワーにとって、おそらくは現役最後のレースになると言われているのが、今週末のJ&Bメットなのだ。南アフリカのファンにとって、燃えないわけにはいかない一戦となることは間違いない。

 そして、そんなJ&Bメットを目前に控えた27日(木曜日)、28日(金曜日)の両日、ケープタウン・インターナショナル・コンヴェンションン・センターで開催されるのが、ブラッドストック・サウス・アフリカが主催する、「ケープ・プレミア・イヤリングセール」である。

 J&Bメットの週に、同じケープタウンで大きな市場が開かれるのは、実はこれが初めての試みである。カタログ記載は290頭で、21日の段階で14頭の欠場が出ているが、南アフリカの一流血統を集めた、実に豪華なラインナップとなっている。

 例えば、上場番号102番の牡馬は、前段で述べた南アフリカ産のチャンピオンホース・ジェイペグの半弟だ。父は、ポケットパワーやジェイジェイザジェットプレインを送り出しているチャンピオンサイヤーのジェットマスターである。

 あるいは、上場番号184番の牝馬は、J&Bメットの本命馬マザーロシアの全妹(父ウィンドラッシュ)だ。現役としては勿論、将来の繁殖牝馬として計り知れない価値がある馬である。

 この他、昨シーズンの南アフリカ2歳牡馬チャンピオン・リンクマンの全弟にあたる上場番号257番の牡馬(父トレアドール)をはじめ、G1勝ち馬の弟や妹、G1勝ち馬の産駒が、目白押しなのだ。

 南アフリカの市場と競馬から、目が離せない週末となりそうである。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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