ジェイエス冬季繁殖馬セール

2011年01月27日(木) 10:00 0

 2008年より始まった冬季の繁殖馬セールが、今年も1月26日に新ひだか町静内の北海道市場を会場に開催された。主催は(株)ジェイエス。秋と比較すると頭数は少ないものの、冬季は現役を引退して間もない「未供用馬」が多く上場されるのが特徴だ。今回は名簿上で51頭と昨年より上場頭数は少なかったが、社台グループ(社台ファーム、ノーザンファーム、ノーザンレーシング)より計16頭の未供用馬が登場するとあって、各地から生産者を始め多くの関係者が顔を揃えた。

(写真・会場風景)

 開場は午前11時。真冬なので北海道市場にはもちろん積雪がある。比較展示は行われず、それぞれが待機馬房に目当ての馬を下見に行くスタイルだ。その合間に市場内のホールでは昼食のサービスがあった。

(写真・下見風景)

 せり開始は午後1時。51頭中7頭が欠場し、実際に上場されたのは44頭であった。

 昨年は2000万円を超える落札馬(マンデームスメ・クロフネを受胎)を筆頭に、500万円以上で取引された上場馬が4頭いたが、今年は全体にやや小粒の印象であった。

 最初に登場したのは「トウヨウロイヤル」(16歳、販売申し込み者・様似・高村伸一牧場)。タイキシャトルを受胎しており、この母が生んだ2頭の活躍馬(マイケルバローズ、サトノプログレス)と同じ種牡馬である。273万円(税込み)で岡田スタッドが落札した。

(写真・トウヨウロイヤル)

 前半に受胎馬が上場されて行く。受胎馬は21頭中5頭が欠場し、16頭が上場された。ここまでで落札は8頭。受胎馬の売却率はちょうど50%である。

 最高価格馬は6番「ルクールドラメール」(14歳、販売申込者・千葉・柄崎州母氏)の488万2500円。父サンデーサイレンス、母クリプテイック(その父Touching Wood)という血統でワイルドラッシュを受胎している。ちなみにこの日の上場馬では唯一のサンデーサイレンス直仔であった。

 受胎馬に続いて不受胎馬が5頭登場してきた。交配したものの不受胎もしくは流産した馬たちで価格はグンと安くなる。うち3頭が落札された。

 市場が俄然活気を帯びてきたのは、未供用馬が上場されてからである。名簿に記載されたこれら未供用馬は23頭。1頭も欠場することなくすべて上場され、価格はさまざまだが1頭残らずすべて落札された。

 未供用馬は現役を引退して間もない牝馬たちで、すでにある程度結果が出てしまっている経産馬と異なり、いわば「未知の魅力」がある。

 23頭中社台グループからの上場馬が16頭を占め、こうしたことが人気に拍車をかけた形である。

 総じてこれらの未供用馬は、血統が良く、ブラックタイプの“濃い”馬が目立った。父馬欄にもアグネスタキオン、シンボリクリスエス、フジキセキ、キングカメハメハなどの名前が並ぶ。ただし、本馬自身の競走成績は、未勝利だったり、地方に転戦して1つか2つ勝っている程度のやや見劣りする馬が大半であった。

 もっとも、これでブラックタイプが太字のゴシックだらけで、尚且つ本馬自身にも競走成績があれば、だいいち売りに出されることはあるまい。もし仮にそんな素材が上場されてきたらそれこそとんでもない価格まで争奪戦が展開されたであろうと思われる。

 もちろんそんな牝馬は社台グループ内で繁殖牝馬として供用される。そして、ここにはやや格落ちの牝馬が登場してくるわけだが、立場を代えて日高の中小牧場にとっては、それでも十分に魅力的な存在に映るのである。

 未供用馬は今春に交配し、出産は来春。そして販売は多くの場合、再来年のことである。したがって、投下する資金が2年近くも「寝る」ことになるわけだが、言うまでもなく同程度の血統背景を持つ牝馬を当歳や1歳市場で落札することに比べたら、遥かに安価である。高い馬でもせいぜい300万円台。景気は決して良くないものの、血統の更新を図りたい生産者がこうしてせりに参加するのだ。

 市場全体では44頭中34頭が落札され、売却率は77.27%。売り上げ総額は6091万500円。落札馬の平均価格は179万1485円。上場頭数で21頭、落札頭数で8頭、それぞれ前年より減少したが売却率は逆に12%ほど上昇した。ただし、最高価格馬でも税込み500万円未満に終わったことから、売り上げ総額(-2879万円)、平均価格(-34万4265円)ともに前年を下回った。

 なお、この日の北海道市場は風も弱く穏やかに晴れており、まずまずのコンディションに恵まれ、午後3時にはすべての上場馬がせりを終えた。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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