良質の若駒を揃えることに成功

2011年02月15日(火) 00:00

 3月に北米のフロリダで開催される2つの主要な2歳トレーニングセールの上場馬が出揃ったが、いずれも今年の開催に向けて例年以上に気合いの入るモチベーションを抱えており、かつてないほど良質の若駒を揃えることに成功している。

 まず、3月3日(木曜日)に開催されるのが、「ファシグティプトン・フロリダ2歳セール」である。

 これまで「コールダー・セール」の愛称で親しまれてきたように、スプリントG1のプリンセスルーニーHなどの開催地としてしられるコールダー競馬場を舞台に行われてきた市場だが、今年は同じフロリダ州にある「パームメドウズ・トレーニングセンター」に場所を移して開催されることになった。

 パームメドウズは、コールダー競馬場からだとフロリダ・ターンパイクを北に42マイルほど上がった地点にある、競走馬のトレーニングセンターである。馬主のフランク・ストロナーク氏が営むマグナ・エンターテインメント社が、同じフロリダ州にあって古馬のG1ドンHやケンタキーダービー戦線のG1フロリダダービーの舞台として知られるガルフストリームパーク競馬場の外厩とすべく、ガルフストリームパークから50マイル弱という場所に02年10月にオープンした施設である。約300エーカーの敷地には、外回りが1周9ハロンのダート、内回りが1周8Fの芝というトレーニングトラックに、1200頭が収容可能な厩舎地区が併設され、北米では最大規模の育成場となっている。

 東海岸におけるサラブレッド競馬の拠点で、3歳3冠最終戦のベルモントS行われるベルモントパーク競馬場などのあるニューヨークは、御存知のように冬が厳しく、トップホースたちは同じ東海岸でもニューヨークよりは遥かに温暖なフロリダで冬を過ごすのが、長年の習慣となっている。そうした馬たちはこれまで、ガルフストリームパーク、コールダー、タンパベイダウンズといった競馬場に滞在するか、あるいは、ペイソンパークのようなプライヴェートの育成場に拠点をおいていたのだが、パームメドウズの開場以降は、トッド・プレッチャーを筆頭に東海岸のトップトレーナーの多くがここを冬場の拠点とするようになり、その結果として、03年以降に誕生したケンタッキーダービー馬8頭のうち、5頭までもが冬季をパームメドウズで過ごしていたという、驚異の躍進を遂げるに至っている。

 パームメドウズがオープンした当初、その規模の大きさから、マグナ・エンターテインメント社はここでの競馬開催を目論んでいるのではないかと噂されたのだが、現時点ではスタンド建設など、具体的な動きは見えていない。その一方で、これも関係者の間で囁かれていた、近い将来ここで2歳セールが行われるのではないかとの噂が、ひと足早く実現することになったのである。

 そういうことで、場所が変わって、名称も「ファシグティプトン・フロリダセール」と改まっただけに、主催者サイドに新装開店を祝いたいという気持ちが強いのも当然だ。これまで以上に熱心に、上場馬集めに奔走した結果、母がG1勝ち馬であったり、兄姉にG1勝ち馬がいたりという馬が目白押しの、上質なカタログが出来上がった。

 また日本の競馬ファンにとっては、今年のGIII中山金杯を制した他、JpnIジャパンダートダービーでも2着となっているコスモファントムの全弟(父スティーヴンガットイーヴン、上場番号47番)が上場されているのも話題を集めそうだ。

 パームビーチ国際空港から、車で35分ほどの地点にあるパームメドウズ。コールダー競馬場に最寄りだったフォートローダーデイル国際空港からも車で45分〜50分という位置にあるから、馴染みのある空港に降りて馴染みのある場所に滞在したいという方は、昨年と同様にチケットとホテルを御手配されても、さほど不便ではない。

 一方、3月15日(火曜日)・16日(水曜日)の両日、同じフロリダ州のオカラで開催されるのが、「OBSマーチ2歳トレーニングセール」である。

 OBSの2歳セールと言えば、2月に行われるフェブラリー・セールで幕を開け、3月のマーチ・セール、4月のスプリング・セールと開催されるのがこれまでのスケジュールだったが、OBSは今年、フェブラリー・セールの開催を休止。これまでフェブラリーに上場されていた馬を吸収合併する形で開催されるのが、今年のマーチ・セールなのだ。

 その背景には、セールの運営コストを下げたいという目論見もあるが、2月の開催では若駒への負担が大きいという、コンサイナーとバイヤーの双方が持っていた共通認識が、フェブラリー・セールを休止した最大の要因と聞いている。

 OBSと言えば、ファシグティプトン・フロリダ、バレッツ・マーチ、キーンランド・エイプリルなど、2歳セールの主要市場に比べると「若干落ちる」というのがこれまでの評価だったが、フェブラリー組を吸収しただけあって、今年のマーチ・セールのカタログも、この市場としては過去最高のものとなっている。

 国際空港としては最寄りのオーランド空港から、90マイルほど離れているという立地は、必ずしも便利とは言えぬが、会場には3月10日(木曜日)・11日(金曜日)の公開調教開催日も含めて、競馬の知識も豊富な日本人スタッフが常駐する予定とのことで、これを機会に足を運んでみようかと言う日本人購買者も出てくるかもしれない。

 いずれにしても、相変わらずの円高・ドル安基調にある今、昨年秋から冬にかけて欧米で開催された繁殖牝馬セールにおいて、トップエンドのマーケットで重要な役割を果たした日本人購買者が、2歳市場でどんな動きをするかに、世界の関係者が注目している。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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