2011年02月23日(水) 00:00
運が大きな役割を果たす勝負の世界、勝つことより負けることの方が多い競馬の世界、どう生き抜くか、そこに価値がある。
今から44年前の昭和42年のクラシック、桜花賞を思い出す。華麗なるキューピットの一族、そこから登場した快速ヤマピットが話題を独占していた。ところがストライキで日程が一週延び、舞台も阪神から京都に替わっていた。大本命馬には大きな痛手、レース当日の昼マイクの前でヤマピットの騎手は、どう乗ってもこの馬が先頭に立てると自らに言い聞かせていた。その胸中はいかばかりであったか。そして、実況マイクの前ではヤマピット先頭を一度も叫ぶことなく、優勝したのはシーエースだった。
ヤマピットは池江泰郎騎手、シーエースには高橋成忠騎手。月日は流れ調教師に、そして精進を続けてこられ、今月一杯でターフを去る。「馬の仕事はコツコツと、どんな小さなことでも手を抜かず向き合っていく、それしかありません」と池江泰郎調教師はある時語っておられた。
メジロマックイーン、ステイゴールド、トゥザヴィクトリー、ディープインパクト、育てた名馬たちの名はキラ星の如く日本の競馬史を飾っている。メジロのおばあちゃんとして親しまれていた北野ミヤさんは、「池江は我慢がきくから信頼できるの」と語っておられた。この我慢は、騎手として入門したときの師匠、相羽仙一調教師の教え。勝負のときのきっちり入念に仕上げる強さは、その後仕えた浅見国一調教師の精神を受け継いだのか。語られた言葉のように、一歩一歩目標に向かって着実に歩まれたその業績は、正に尻上がり、その場その場が道場であり修行であったように見える。「歩々是道場」ということ、自分を磨くために奉仕する、恐らくそういう境地であったのではないか。名伯楽の何たるかを示してくれた。歩くたびに清風が足もとから吹き上がってくる、かくありたい。
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長岡一也
ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。