前に進む力にかえなくては

2011年03月16日(水) 00:00

 どれだけの言葉を並べれば、この想いを表すことができるだろう。かつて見た山や海やそこに住む顔見知りの人たちの暮らし。こうなってしまったのだからと受け止めるしかない。はがゆいこの心、切ないこの心。テレビには被災した無惨な風景が、もう戻ってはこない。すべて、津波に呑み込まれてしまった、想い出の景色。暖かく、やわらかく、やさしく幼い日々をつつんでくれたあのときの温もりは、泥や瓦礫とともにすっかり流されてしまったのだ。

 問いかけ始めたら何もできなくなってしまうのに、「何のために」と思ってしまう。何のためにこれからと、生き残ったものにも辛い日々が待っているのだ。しかし、事実生きているのだから、そうとばかり言ってはいられない。自分に嘘をつくのではなく、納得させる言葉を見つけて、前に進むまなければならない。「何のために」ではなく「何をしたいのか」そう考えていくしかない。いや、そうしなくては。それと。少しでも日常を取り戻すことで、前に進む力にかえなくては。

 しばらく脳裏から消えていた競馬が、どう甦るか。始まってみなければ分からなくも、少しずつ落ち着いてくると、そっちの思いが強くなってきた。迷うと言っても競馬での迷いは他愛ない。答えを出せずに苦しむことばかりでも、こっちは苦しむことでも楽しみでもあると言えるし、何と言っても直ぐに答えが出るから、次への切り換えも早い。駄目なら次にチャレンジすればいいのだ。

 それと人の群れの中に立つだけでも十分と思えるから、競馬場の雑踏が、案外この身を救ってくれる。見知らぬ人の間を抜けて、知らない人の横に立つ。しかし、知らない人と言っても、そこにある思いは皆同じなのだから、分かりやすい。思案気に首をかしげている様子が、とても親し気に見える。ここならではの日常から取り戻すことにしなければ。

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長岡一也

ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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