2011年03月19日(土) 10:00
未曾有の大災害に見舞われ、平静を保つのが難しい状況です。
私も、先週のコラムをアップした後、書いたことは正しかったのか、間違っていたのか、悩み続けました。
でも今は、ひとまず先週と同じ考えにたどり着きました。“生業”を持った人たちが、できる限りその“生業”を続けることが最も重要だと、あらためて思っています。
ばんえい帯広競馬は、震災翌日の12日を休催しただけで、13日には再開しました。これには、「こんな時に競馬なんて」という、“当然の批判”が数多く寄せられたそうです。
騎手や調教師など“現場”の方々の間では、自身が東北地方出身で、親戚や友人が被災された方も多く、帯広のお膝元・十勝地方が津波の直接の被害を受けたこともあり、「この状況では、とても競馬はできない。せめて数日間は開催を自粛すべき」という意見が大勢を占めたとのこと。主催者の再開決定には反発の声が上がり、相当に複雑な気持ちを抱えながらレースに臨まざるをえなかったと聞きました(藤本匠、安部憲二騎手の話)。
一方で、このまましばらく開催を控えていたらどうなるでしょう。藤本騎手はこう言っていました。「自分たちは、まぁ何とかなる。いや、何とかしなきゃいけない。でも、馬主さんが馬を持ち切れなくなる。預託料だけかかって、賞金も出走手当ももらえなくなるんだから。馬主が馬、預けてくれなかったら、競馬はおしまいだ」。
さらに、競馬があることで収入を得ているのは、主催者や騎手・調教師などの“現場”の人たちだけではありません。開催がなければ、様々な人たちが収入を失うことは、みなさんにもご想像いただけると思います。
今、開幕をどうするかでいろいろな意見が出ているプロ野球もそうです。野球の試合がなければ、例えば球場の売店は閉店、そこで働いている人たちの中には、収入を失ってしまう人も出てくるはずです。
選手達が「今は試合をする場合ではない」というのは“当然の思い”でしょう。でも、もう一歩踏み込んで、「試合をしないと、どういうところに影響が及ぶのか」を考えたら、話は違ってくるかもしれません。
競馬の再開には、“当然ながら”否定的なご意見があります。しかし、多くの地方競馬は、太平洋戦争後の戦災復興を目的に始まったということを、この際あらためて思い起こしてもいいでしょう。
また、今週末、過去に例を見ない暫定措置で再開された中央競馬では、“現場”の方々が複雑な思いを抱えながらも、力を合わせて可能な限りの“支援”に繋げようとしています。日本競馬界全体の取り組みが、広くご理解いただけるよう、願わずにいられません。
合言葉は「被災された方々のために、われわれの日本のために、そして、世界のために」です。
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矢野吉彦
テレビ東京「ウイニング競馬」の実況を担当するフリーアナウンサー。中央だけでなく、地方、ばんえい、さらに海外にも精通する競馬通。著書には「矢野吉彦の世界競馬案内」など。