競馬は魅力にあふれるもの

2011年04月02日(土) 00:00

 大震災後の重苦しい空気を振り払い、沈みがちな心を明るくしてくれるもの。先週の競馬に、それを見ることができました。1つはドバイワールドC。もう1つは、ばんえい記念です。

 まずドバイワールドC。粒ぞろいのメンバー構成となったレースで、ヴィクトワールピサはよくぞ勝ってくれました。2着に粘ったトランセンドもお見事。ブエナビスタや、その他のレースに出走した日本馬は残念でしたが、それらを含め、“チームジャパン”として参戦した結果の勝利だったと思います。

 それにしても、デムーロ騎手の手綱さばきには恐れ入りました。2コーナーで最後方からポジションを上げ先頭に並びかけても、しっかり折り合いを付けていたこと。そこからしばらく、トランセンドとともに絶妙のペースを保っていたこと。そして、早めに先頭に躍り出ながら、400メートルの直線を最後までキッチリ追い切ったこと。馬がそれに応えてくれたからこそのパフォーマンスとはいえ、素晴らしいものを見せてもらいました。

 そのあとに行われたばんえい記念も、歴史に残る名勝負でした。2連覇を狙うニシキダイジンと、過去2回の挑戦でいずれも2着に敗れ、“3度目の正直”を目指すカネサブラックの一騎打ち。抜きつ抜かれつ、どっちが勝ってもおかしくない大激戦の末、カネサブラックが初優勝を果たしました。同馬の手綱を取った松田道明騎手にとっても、悲願のばんえい記念初制覇です。

 走破タイムは4分あまり。その間、私は、ほかのことを一切忘れて、勝負に見入ってしまいました。大震災からわずか2日の競馬再開には異論があったものの、予定どおりにばんえい記念を開催できたことはよかったのではないか。レースが終わって一息ついた時、関係者もファンも、そんな思いを抱いていたように感じました。私もそうでした。

 2つのレースからあらためて感じたスポーツの力。センバツ高校野球やサッカーのチャリティーマッチにも共通するものです。「たかが競馬」ではありません。「されど競馬」です。

 それを見た人が、一瞬ではあってもイヤなことを忘れ、「いいものを見た」という満足感に浸れる。さらに、「いいものをまた見たい」と思う気持ちが、生きる意欲を与えてくれる。大げさに言えば、競馬にも、そういう魅力があります。

 さぁこれから、という時に、レーヴディソール骨折のニュースが飛び込んできてしまいました。それでも、もうすぐ、春のクラシックシーズンが開幕します。きっとまた、過去の名勝負に勝るとも劣らない、素晴らしいレースが繰り広げられるはずです。いや、そうでなければいけません。

 今は様々な事情で競馬に参加できないでいるみなさんも、どうか一刻も早く、魅力あふれる競馬の世界に戻ってこられますように。

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矢野吉彦

テレビ東京「ウイニング競馬」の実況を担当するフリーアナウンサー。中央だけでなく、地方、ばんえい、さらに海外にも精通する競馬通。著書には「矢野吉彦の世界競馬案内」など。

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