2011年04月05日(火) 00:02 1
懸案だった追加登録の問題に解決への道筋がついたことで、トランセンド(牡5、父ワイルドラッシュ)のブリーダーズC遠征プランが具体化していると聞く。
昨年春までは、手がつけられない強さと、あっけなく退く脆さが同居していた同馬。それはまさしく、父ワイルドラッシュの現役時代を彷彿させるものだった。重賞初制覇となったG2イリノイダービーを勝った時が、トラックレコード。レミントンパークダービーを勝った時も、トラックレコード。古馬になって7FのG1カーターHを勝った時が、2着に7馬身差と、ワイルドラッシュも勝つ時には際立つ強さを見せていた馬だ。4歳一杯まで走って14戦し、4重賞を含めて8勝という立派な成績を挙げたワイルドラッシュ。だが、この成績で、2着は一度も無いのだ。負ける時はあっさりと引き下がるタイプの競走馬だったのである。
トランセンドが、父譲りの淡泊さから脱却したのは、自らレースを作るようになってからだ。みやこSからフェブラリーSまでの圧巻の3連勝を含め、6戦して6連対、3着以下なしと、キャラクター一変の安定ぶりを示すようになった。力を付けたがゆえに出来る芸当だが、来るなら来いというレースぶりは、昨年春から手綱をとるようになった藤田伸二騎手の性格ともマッチしていたのだろう。
スタートからダッシュを利かせてハナを切り、能力一杯に粘り込むというのは、アメリカで強い馬が強い競馬を見せる時のレースぶりである。そういうスタイルを確立出来たこと、現在のアメリカにおけるダート中距離戦線は例年に比べれば古馬勢が手薄なこと、などを鑑みると、この馬にはアメリカ遠征を視野に入れて欲しいと、ワールドCの以前から思ってはいた。
これだけの馬になった以上、アメリカへ行くならば最大目標はブリーダーズCになるのが自然の流れなのだが、そこでネックとなりそうだったのが、出走登録の問題だった。ブリーダーズCとは基本的に、当該馬の父馬と、当該馬の両方にブリーダーズCへの登録があって、初めて出走が可能になるレースである。そうでなくとも日本に比べると登録料が安くはない米国だが、登録漏れの馬が出走するためには、途方も無い金額の追加登録料を支払うことが規定で決まっていたのが、ブリーダーズCであった。
で、残念ながらトランセンドは、この馬が生まれた年度に父ワイルドラッシュのブリーダーズC登録はなく、従って、トランセンド自身のブリーダーズC登録もなされていないという事実が、3月末の段階で判明したのである。そういう馬は、これまでの規定であれば、総賞金の20%を追加登録料として納めなければ、出走出来ないのがブリ-ダーズCであった。BCクラシックの総賞金は500万ドルだから、その20%となると100万ドル、日本円にしておよそ8000万円を納めないとゲートインすら出来ないのであった。
言うまでも無くこの金額を出せる馬主さんではあるが、登録料としてはいくらなんでも法外である。アメリカには、もっと出走しやすくて権威もあるレースはたくさんあるのだが、そういうレースに勝って、ブリーダーズCを見送って帰って来るというのも癪にさわる話で、それならば日本国内のレースに的を絞ることになるのかなと思っていたところだった。
ところが、ブリーダーズCの追加登録料が高すぎるという話はアメリカ国内でも関係者の口から頻々と出ていた話で、世界各国に国際競走が花盛りの昨今、こんな規定があっては良い馬が集まらず、ブリーダーズCがつまらなくなるという声に主催者も応えざるを得なくない、規定には段階的に手が加えられてきた。
カリフォルニア在住で、ブリーダーズC協会のお仕事を委託されている柘植みち子さんからいただいた情報によると、現在の規定は以下のようになっているそうだ。
まず種牡馬登録に関しては、BC Open Enrollment Programという救済処置があって、ワイルドラッシュに関しては今年6月30日までに公示種付け料の50%を収めれば、登録を承認されるとのこと。
更に、ワイルドラッシュが上記手続きを行うと、その産駒は1歳馬の場合3000ドル、2歳馬の場合6000ドル、3歳以上の場合は2万5千ドルを支払えば、ブリーダーズCへの追加登録が認められるとのこと。こちらの方の登録期限も、6月30日だそうだ。
すなわち、父ワイルドラッシュの追加登録手続きが6月30日までに完了すれば、トランセンドは2万5千ドルを支払うことによって、ブリーダーズCへの出走がかなうことになるのだ。
ブリーダーズC当日までには、更にレース12日前とレース3日前の2度、登録のステージが設けられており、レース12日前のプリ・エントリーの段階で総賞金の1%(5万ドル)、3日前の本登録の段階で総賞金の2%(10万ドル)を、登録料として納める必要がある。従って、出走にこぎつけるまでには、総額17万5千ドル(約1400万円)の登録料が掛かってくるわけである。これでも、相当に大きな金額ではあることには変わりはないが、8000万円に比べたら、かなりの軽減と言えよう。
日本のダート最強馬で、オールウェザーの部門でも世界第2位となったトランセンドだけに、主催者のブリーダーズC協会も誘致に熱心と聞く。一ファンとしても、実現して欲しい遠征である。
合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。