2011年04月06日(水) 00:00
未曾有の大被害をもたらした「東日本大震災」の余波は、その後様々なところに波及しており、その最大の“癌”は、原子力発電所事故である。ここが収束しない限り、まだまだわが国の経済は、この強烈なボディーブローにいつまでも苦しめられることになろう。
このほど、南関東4場の地方競馬は、4月12日からの再開を正式に発表した。しかし、ナイター開催が見送られ、日中の開催を選択せざるを得なかったのは、計画停電の影響である。5月以降についてはまだ分からないものの、急速に発電力が回復とは思えず、今年度のナイター開催は大幅に見直されることになりそうだ。
その南関東に場外発売を依存している道営ホッカイドウ競馬もまた、4月29日の開幕予定は今のところ変更なしのはずだが、果たしてナイター開催(ホッカイドウ競馬は今全開催をナイターで実施している)に踏み切るのか、それとも日中開催でスタートするのか、今のところ判然としていない。
はっきりしていないといえば、JRAが当初、中山競馬場で4月25日に実施する予定になっていた「JRAブリーズアップセール」も、今回の震災によって、保留になったままである。その後、今日に至るも正式発表がまだない。震災後、その被害と影響が予想以上のものであったことから、一時は関西地区(阪神競馬場?)での開催や札幌競馬場での開催、もしくは宮崎と日高の両育成牧場に分けて開催するプランなども検討されていたはずで、このあたりにも大震災の影響が及んでいる。
さて、そんな中、今年もPOG取材の季節が到来した。馬券売り上げとともに競馬人気も低迷している昨今だが、このPOGだけは依然として一定数の愛好者がいると言われており、各媒体にとっても競馬関連本の中では重点刊行物になっているらしい。
ただし、今年の場合は、やはり大震災の影響で、北関東から東北にかけて分布している製紙工場が大きな被害を受けており、出版社は用紙の確保がかなり窮屈になってきているとも伝えられる。優先されるのは定期刊行物のようで、不定期刊行物は後回しになってしまうとか。POG本は、いわばこの不定期刊行物に該当するため、各社とも、まずは印刷用紙の調達、確保から仕事を始めなければならない事情になっているそうである。
紙すら不足してきているとは、と改めて今回の大震災の被害がいかに大きかったのかを思い知らされる。
とはいえ、先月末あたりより、胆振、日高の各育成牧場ではPOG関連の取材が始まっており、このところの好天も幸いして、順調に日程が消化されている。
去る3月31日は、新ひだか町と新冠町に展開する大御所のビッグレッドファームとコスモビューファームの合同取材日であった。
合同取材とは、牧場側が予め日時を設定し、その日にまとめて取材を受ける形式で、何度も各社が入れ替わり立ち代り取材に訪れる煩雑さを解消するためのものだ。
この日はカメラマンとライター合わせて、計10人以上が集合し、ほぼ1日かけて計40頭を取材した。
手順としてはまず立ち写真の撮影が先になり、撮影後に各馬ごとのコメントを頂くのが通例である。
囲み取材ゆえに、ほぼ各社とも同じような内容になってしまうのが難点と言えば難点だが、今のところ、この取材方法がベストであり、個別の抜け駆けは現実問題としてかなり難しい。
取材者はできるだけ「独自の耳より情報」を入手したいと考えるものの、そんなチャンスはほとんどなく、また日を改めて個別に取材することも牧場によっては歓迎できないところで、何よりまずは「快く取材に応じて頂く」のが基本中の基本。決して無理強いなどはできるわけもないのである。
取材のピークは今月上旬から中旬にかけてになろう。毎年感じることだが、この時期は、育成牧場によって馬の完成度がかなり違ってくる。
隆々として大人びた2歳馬ばかりの揃っている育成牧場もあれば、まだ冬毛が伸びていて、お世辞にも見栄えのする馬体とは言いがたい2歳馬の目立つ牧場もあり、実に千差万別である。
しかし、それが必ずしも、デビュー後の競走成績に直結、反映するかというと、決してそんなことはなく、要は「これからいかに成長するか」がポイントになる。すでに、ほぼ完成形の早熟なタイプは、デビューも比較的早い傾向があるのだが、問題は、その後どれくらい変わって行くか、という点だ。
したがって、単純に写真だけを見比べて優劣などつけられるはずもなく、この時期には集中的に数多くの2歳馬を見ることになるが、今もって「走る馬の方程式」は解明できないでいる。
それにしても、来週には震災後1か月目を迎えることになるが、依然として原発事故は収束の兆しがなく、それが私たちの日常に重くのしかかってきている。直接、大きな被害を受けなかった日高の生産地でも、じわじわとその影響が及びつつあり、つい先日も知人の生産者が「売れていたはずの1歳馬が震災のせいでキャンセルになってしまった」とこぼしていた。
震災復興のために多額の予算が投じられ、それが回り回って景気浮揚を後押しする、とも言われるが、あくまでその効果は限定的であろう。
競馬も生産地も、これからどれほど震災の影響が出てくるのか、実はまだよく分かっていない。それほど大きな激甚災害であり、とりわけ原発事故は致命的だったと言わざるを得ない。
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田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。