度胸

2011年04月06日(水) 00:00

 人間は難事に当たってビクとも動かぬ度胸がなくては、とても大事を負担することはできない。今の奴らは、ややもすれば、智慧をもって一時逃れに難関を切りぬけようとするけれども、智慧には尽きる時があるから、それは到底無益だ―これは勝海舟の言葉なのだが、折に触れて蘇ってくる。智慧より度胸という勝は、幕府の始末をつけるのにこの思いを強く持って難局を乗り切った。

 小事にとらわれず大胆に行動することほど強いものはない。天下の大勢を見極め、その機先を制するやり方で事を成し遂げる、これほど胸がスッキリすることはないのだ。

 競馬だって、その場の空気を大きく掴んでいるときは、実に大胆な手が打てる。真っすぐ突き進んでいく様は、まるで無神経。世の中にこれほど強いものはないと断言しているようなものだ。事実、小さなことにこだわって、あれこれ手を尽くしているような時は、決まっていい結果にはなっていないものだ。

 クラシックレースともなると、そこかしこにデータや情報が溢れている。突き詰めていって万全の態勢で臨もうと思ったら大変なことになるのだ。考える材料が頭いっぱいになって、到底整理がつかず、そんな混沌としたままで当日を迎えるのが関の山。結局は曖昧な精神状態でレースに打って出て、挙句の果てに無念の討ち死にということになる。

 こんな経験をどれほど重ねてきたことか。

 よく、経験が人をつくるとか、人を育てるとかいうが、どうもそればかりではないようだ。それよりも肝心なのは、度胸。レースの大体を明察して、その機先を制する行動に打って出る度胸こそが、クラシックレースにチャレンジする心構えなのだと、自分の拙い経験は教えてくれているのだ。

 大局を見抜く目、とにかく、それを持てるようにしていきたい。どんなデータや情報が溢れていようとも、そんなことには無神経に自分の感性だけで前進していこうではないか。

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長岡一也

ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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