クイーンエリザベス2世C展望

2011年04月20日(水) 12:00 5

 5月1日に香港のシャティン競馬場で行われるG1クイーンエリザベス2世C(芝2000m)の出走メンバーが出揃った。当初予定されていた顔触れから、愛国でG1・2勝のケイプブランコ(牡4、父ガリレオ)が欠けたが、それでも、レース史上でも屈指の好カードとなった。

 外国勢4騎は、いずれもドバイからの転戦組である。

 筆頭は言うまでも無く、G1ドバイワールドC(オールウェザー2000m)の覇者ヴィクトワールピサ(牡4、父ネオユニヴァース)だ。昨年の秋からずっとイントレーニングの状態で、世界を股にかけてタフな戦いを続けているが、馬は益々元気で、むしろパワーアップしているように見える。シャティンの時計がかかる芝も、この馬には向きそうだ。

 同じく前走はドバイワールドCだったのが、ヒターノエルナンド0(牡5、父エルナンド)だ。前走までは英国のマルコ・ボッティ厩舎の所属馬だったが、ここは南アフリカのハーマン・ブラウン厩舎所属馬としての参戦となる。

 英国をベースにしていながら、3歳秋には北米西海岸に遠征してG1グッドウッドC(オールウェザー9F)を制したり、4歳秋にはダンドークのG3ダイヤモンドS(オールウェザー10F150Y)を制したりと、人工馬場での活躍が目立っている。だが、3歳春にはダービープレップの1つG3ディーS(芝10F75Y)で2着したり、4歳秋には10F路線の総決算G1チャンピオンS(芝10F)で4着になったりと、芝での実績も積んでいる馬だ。シャティンの芝が舞台でも、持っているだけの能力は発揮できるはずである。

 ただし、トップスピードに乗るまで時間を要する馬で、直線430mのシャティンではエンジンが掛からぬうちに終わってしまう懸念がある。そして肝心の「持っているだけの能力」も、芝でのベストパフォーマンスである昨秋の英チャンピオンSのフォームを再現しても、ヴィクトワールピサには3馬身前後足りないと見る。

 海外組の残る2頭は、G1ドバイデューティーフリー(芝1800m)を使われた馬だ。

 同レース2着だったリヴァージェティス(牝7、父ジェットマスター)は、3歳時から南アフリカのトップ戦線で活躍。昨シーズン、南アフリカの2大競走の1つであるG1J&Bメット(芝2000m)を制したのをはじめ、通算で6つの重賞を制するという輝かしい実績を持つ。06年にイリデセンスで、08年にアーチペンコで、このレースを制しているだけでなく、グレイズイン('05年)やリザーズデザイア('10年)で2着になるなど、G1クイーンエリザベス2世Cと相性抜群のマイク・ドゥコック調教師が送り込んで来るだけに、自信の参戦と見る。

 前哨戦のG2ジェベルハタ(芝1800m)で重賞初制覇を果たした後、G1ドバイデューティーフリーは3着だったのが、英国調教馬のウィグモアホール(牡4、父ハイチャパラル)だ。

 ドバイデューティーフリーではプレスヴィスに2.1/4馬身遅れをとったが、直線で馬群が壁になって進路がなくなる場面があり、スムーズに競馬をしていればもう少し際どい勝負になったはずだ。4歳の春を迎えて競馬っぷりが目に見えて良くなっており、順調であればここも争覇圏の1頭であろう。

 父ハイチャパラルは、欧州よりも豪州でより多くの活躍馬を出しており、起伏の多い馬場での力勝負よりは、平坦馬場での軽快な競馬を得意とする産駒が多く見られる。管理するマイケル・ベル調教師はその辺りを見越して、昨年夏には本馬を北米のアーリントンに遠征させてG1セクレタリアトSで2着に入り、今年の春はドバイへ渡って大きな成果を挙げている。そういう意味では、シャティンもこの馬の能力を存分に発揮出来る舞台であろう。主戦のジェイミー・スペンサーが、同日にニューマーケットで行われる英千ギニーでの騎乗を諦めて香港に駆け付けることになっており、この辺りにも勝負気配が窺える。

 迎え撃つ香港勢では、昨年12月のG1香港Cでスノーフェアリーの首差の2着となったイリアン(セン4、父ターチュリアン)が筆頭格だ。欧州で走っていた時代に、独2000ギニーを制した他、G1ジャンプラ賞やG1ジャックルマロワ賞で入着している実力馬である。HK-G1香港GC、HK-G1チェアマンズトロフィーと、ここ2戦続けて着外に敗れているのが気懸かりだが、香港Cのレースを再現出来れば、大勢逆転の可能性を持つ馬だ。

 HK-G1香港GCで重賞初制覇を果たしたカリフォルニアメモリー(セン5、父ハイエストオナー)も、今が昇り調子だが、さすがにここまで相手が強くなると、いかに地元の利があっても、好勝負は厳しかろう。

 昨年のこのレースの勝ち馬ヴィヴァパタカ(セン9、父マージュ)は、実にこのレース6度目の出走となる。実績は買うが、近走を見るとさすがに年齢的衰えを隠せず、ツボに嵌ったとしても入着までか。

 レースの模様はグリーンチャンネルで中継予定なので、ぜひご注目いただきたい。

▼合田直弘氏の最新情報は、合田直弘Official Blog『International Racegoers' Club』へ。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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