2011年04月20日(水) 12:00
去る4月12日(火)。BTC育成調教技術者養成研修の開講式が行われた。今春、晴れて開講式を迎えるのは第29期生。計21名(女性2名含む)が1年間をかけて育成調教をここで学ぶのである。
29期生の21名は、全員が本州出身者だ。年齢は18歳から29歳まで。最も遠方の研修生は香川県から。都道府県別では千葉県が4人と最も多い。続いて東京都の3人。
大震災に見舞われた宮城県からやってきた研修生もいる。前山翔太君(18歳)である。住所は仙台市太白区で、自宅は幸い「食器が割れた程度の被害で済んだ」そうだが、しかし、何人もの友人知人が被害を受けているという。しかし「馬の世界に入りたかった。ここは施設もすばらしいしとても嬉しい」と言い「自分の手がけた馬が重賞を勝てるようになりたい」と抱負を語った。
また、浅子祐貴君は、昨年夏の体験入学に兄弟で参加し、兄の祐貴君だけが合格した。現在、弟は新ひだか町のJBBA(日本軽種馬協会)で実施している「生産育成技術者研修」に無事入学し、兄より一足先に4月5日、開講式を迎えた由。
また東京都出身の東間勇太君は東京農大一高で馬術部に所属していたという。江井義経君も同じ東京都出身で、こちらはサッカー一筋だったそうだが、この江井君の父は福島県南相馬市出身と聞いた。
ともあれ、今年も個性豊かな21名が揃い、さっそく翌日より訓練が始まった。
その3日後の15日(金)。昨春ここに入学した28期生がめでたく修了式を迎えた。BTC育成調教技術者養成研修は、通常の学校と順序が逆で、先に開講式、そしてその後に修了式となる。これは数日間だけでも先輩から後輩に、さまざまな申し送りをするためで、例えば、訓練用乗馬の管理方法や作業手順などを円滑に次期研修生へバトンタッチするのが目的である。
28期生は昨年21名が入学したが、4名が年度途中でリタイアし、17名が今回修了式に臨んだ。
すでに全員が就職先を決めており、修了式に先立って、厩舎エリアでは記念撮影などが行われた後、午前10時半より、BTC北門近くにある800mダートコースにて騎乗供覧を披露した。
私が昨年より注目していた研修生は、既婚者で子供のいる田中瑛祐さん(28歳)である。社会人経験のある田中さんは、やはり馬の仕事がしたくてここに入学し1年間の訓練に耐え、このほど晴れて修了式を迎えた。
すでに新ひだか町内のD牧場に就職も決めており、ご主人不在の間、子育てに孤軍奮闘していた夫人もお子さんを連れて来場していた。
ハンデがないと言えば嘘になるが、この人の英断を素直に称えてあげたい気分になった。一応、田中さんは騎乗技術者として就職するようだが、育成牧場の業務は多岐にわたる。労務管理や経理、接客などある程度の経験が必要な業務も多い。ぜひ、この業界で生き抜いて欲しいと願うばかりだ。
騎乗供覧は、3つのグループにわかれ、常歩から速歩、キャンターへと移り、最後の1周はハロン18秒程度まで時計をつめて駈歩を行った。
昨年もそうだったが、3日前に開講式を迎えたばかりの29期生が引率されて先輩たちの騎乗供覧を見学にきていた。やはりまだ支給された上下の作業服が身についていない。しかし、これから徐々に慣れてくるに従い、作業服も長靴もヘルメットもだんだんと似合うようになってくるはずだ。28期生たちも昨春の開講当初はそうだったのだから。
午前11時半よりBTC診療所二階の会議室にて修了式が行われ、一人ずつに修了証書と記念品のゼッケン(これは騎乗供覧の際に使用していたもの)が伊藤克己・BTC理事長から手渡された。
ようやく長かった1年が終わったとホッとする間もなく、今度はいよいよ育成の現場で働くことになる。どうか頑張って良い調教技術者になって欲しい。
最後にひとつ、研修内容について要望がある。差し出がましいことだが、騎乗技術の研鑽はこの研修の柱なのでもっとも重点を置くのは当然のことだが、それと同時に、ぜひ「馬を立たせて見せる」技術も指導していただきたいと思う。
育成牧場の従業員の中には、上手に馬を立たせられない人が少なからずいて、写真撮影の際に難渋させられることがあるからだ。
馬を立たせる、見せる技術は日常的に来訪する調教師や馬主、生産者などの来客に対しても大切な技術で、いかにきれいに格好良く立たせられるかを教えるべきだ。
馬の仕事は奥が深く、これで良いということはおそらくない。1頭ずつ個性も体型も異なる馬に合わせた立たせ方、見せ方がある、ということをわかりやすく伝えて欲しいと希望しておく。
また機会を見て、29期生たちの訓練風景や「その後の28期生」の様子などお伝えするつもりでいる。
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田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。